Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

森絵都『屋久島ジュウソウ』  ★★★

屋久島ジュウソウ
屋久島ジュウソウ
森 絵都
「あのときは苦しかった」
「みんなよくやったよ」
「でも今思うと楽しかったねえ」
「あのときはもうダメかと思った」
「よく歩き通したよ」
「でも今思うと楽しかったねえ」
 会話は概ねこんな感じで、たいして内容のある話はしていなかったとはいえ、人間、気分のいいときは内容などなくても盛りあがれる。逆を言うと、内容を必要としない盛りあがりほど得がたいものはない。

 森絵都がエッセイを出すなんて! わーいわーいと浮かれつつ読みました。タイトルどおり、屋久島に行ってジュウソウ(縦走)した旅の工程が、毎食の記録を含めて細かに記されていた。読み終えた私が「男女のグループで宮之浦岳に登りたい!」と色めきたったのは、不可抗力だ。
 登山ガイドの細田さんが、事前に森さんたちに提案したコースはかなりきついが景色がいいらしい。森さんたちの頭からは「きつい」がすっぽ抜け、景色がいいことしかなかったそうな。登ってびっくりクライマーズ・ハイ。でもあんな景色と壮大な屋久杉が見れたんだから、いいよなあ。いいなあ。屋久島行きたい。森さんたち一行は一晩を山小屋で過ごしたのだが、山男たちのマナーは最悪だそうだ。ひええ。
 ほとんどが三十代のグループにできるのなら、ギリギリ十代の私ならどうにかなるのではないか? という楽観的観測とともに、同士を募って屋久島に行こうと思う。学生のうちにね。五月くらいがいいのかなあ。ううむ、難しい。
 後半はslight sight seeingという、小説すばるに連載していたエッセイ。一人でお酒を、忘れられない味、善悪のバランス、アフリカの南のほう、トリエステ、終わらない旅心、怪しげな黒い鞄、無縁の縁、モロッコの車窓から、ハッサン、パリのメシア、海外でキレるとき、トラベル読書術。
 森さんは十年ほど前オクスフォードにホームステイしていたらしく、世界各地を旅している。英語が出来るからか。お金持ちなのか? 羨ましい! 私もナイル川を下ってみたい……。このエッセイを読んで、留学願望がむくり。トフルの勉強しなきゃ! その前に申し込みを済ませなきゃ! 私も一人旅がしてみたいのだが、親に止められている。養ってもらっている身としては一人立ちするまで我慢……。かなりのインドア派なのに、旅となると人が変わったようにフットワークが軽くなるのです。