Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

海堂尊『チーム・バチスタの栄光』  ★★★☆

チーム・バチスタの栄光
チーム・バチスタの栄光
海堂 尊

(中略)沈黙も含めて全て。人の話に本気で耳を傾ければ問題は解決する。そして本気で聞くためには黙ることが必要だ。

「病に倒れるということは、無に還れという天からの指令です。それをヒトの力でねじまげようとする方が傲慢だ」


 このミス大賞を受賞した本作。このミスを読んだ時気になっていたので。もっと気になっているのは『殺人ピエロの孤島同窓会』なんだけどね。
 東城大学医学部付属病院では、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門チーム「チーム・バチスタ」を作り、次々に成功を収めていた。ところが今、三例続けて術中死が発生している。しかも次は、海外からのゲリラ少年兵士が患者ということもあり、マスコミの注目を集めている。そこで内部調査の役目を押し付けられたのが、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来責任者・田口と、厚生労働省の変人役人・白鳥だった……。 (Amazon
 手堅く面白かった。読み始めた時はくだけた一人称に戸惑ったけど(もっとかっちりしているのかと)。選評に全て書かれているんだが、もっと洗練された文章になる余地がたっぷり。現役の勤務医ということで、手術中の張り詰めた空気や術死の恐ろしさはたっぷり伝わってきたんだけど、その分専門用語が飛び交っていたから、ちょっとごてごてしちゃったのかなあとは思う。白鳥の肩書きは読むのが嫌でした(笑)まあ、やっぱり慣れてないのかな、小説書くの。デビュー作ですしね。現役勤務医ってすごいな!
 主人公で語り手の田口先生は子供っぽいところがあったりして年齢不詳だなあ、と思っていたら41歳だった。……そっか、37歳くらいが理想だったんだけどな(聞いてない)。出世コースから外れ仙人然として勤務する、ってのは「小早川信木の恋」を思い出させた(こっちのが先だけど)。愚痴外来ってのはあっぱれな通り名だな! 白鳥は変人探偵。頭のいい変人にも色々あるが、彼も他の例に違わずついてこれない人は置いていく。どこまで計算なのかわからない。同僚にいたら大変だろう。前半は田口が一人で事件の解明にあたるが、後半からは白鳥が加わり面白みが増してくる。二人のコンビは微笑ましかった。
 その他のキャラクターも容易に判別できる個性を持っていた。見立ての動物がそれを象徴していたんじゃないかな。高階病院長と黒崎教授、チーム・バチスタの面々であるリーダー桐生と病理医鳴海、助手の垣谷と酒井、麻酔医氷室、工学士羽場、看護師大友……デフォルメされたみたいな個性。
 トリック的には地味だし医療に通じてないから推理は無理なんだけど、それでも面白く読めたんだからすごい。私もシリーズ化してほしいな。おさまるとこにおさまったラストは、想像できたけどよかった。この病院の今後が知りたいってのがあるけど、これ以上ここで事件が起こったら病院がダメになっちゃうし、そうなると白鳥単品じゃないといけないのか。田口先生には頑張っていただきたい。

 

 氷室先生だったかー……。出るとこに出た、って感じかな。白鳥が言いくるめられたからもう道はないのかと思いましたが、あったのね。チューブについて田口に説明している場面は印象に残っていたわ。
 毒薬と何の害もない薬を使ったロシアンルーレット(?)はよくあるよね。ミステリで用いられるのは被害者に選ばせる場合が多いかな。古畑任三郎イチロー篇みたいな。

「僕が面倒を見ているイヌは、尻尾をぱたぱた振りながら、僕にすり寄ってくる。イヌは可愛い。だけど僕はそのイヌを殺す。医学の進歩という大義名分の名の下に。僕にとってヒトは、隣を通り過ぎる見知らぬ物体と同じ。感情移入はしない。可愛いイヌさえ殺せるのだから、ヒトを殺す時には別に何も感じない」


「人と犬は違う」という田口には私は反対です。この場合、私は氷室先生側の意見を持っています。動物実験の恩恵にあやかりまくっている上に菜食主義者でもない私が言うのも何だけど、やっぱりイヌの方が可哀そうに思える。