山田詠美『風味絶佳』 ★★★☆
風味絶佳
山田 詠美
食べること。セックスをすること。眠ること。彼のそれらの行為に、自分が、どの女よりも有効であるのを確認したかった。空腹を満たすことから、すべては始まる。私は、彼の始まりを独占しようとしていたのだ。(夕餉)
「大人が初恋やり直すって、いやらしくて最高だろ?」
でも、人を情けないと思うのと、いとおしいと思うことってなんて似ているんだろう。(海の庭)
この恋(このミスに従って略すとこうなるのかな?笑)で見事二位に輝いた本書。ダ・ヴィンチでも二位でした。私が読んだのはプラチナ本だったから。山田詠美作品は好きなものとそうでもないものがはっきりしてます。とりあえず、外人が出てくるのはあまり好みません。不動のマイベストは『風葬の教室』。『僕は勉強ができない』『放課後の音符』『姫君』『色彩の息子』あたりが好き。
肉体労働者との恋を描いた、って説明ではじめてそうだったのか! と気づく。ああ、男性は皆肉体使って働いてるのね……ご飯とセックスが肉体を作っている。わかりやすい。山田詠美の本は男と女の相違がはっきりしているなあ。女性が女性であることを最大限に愉しんでいる気がする。
間食:鳶の雄太は、自分のすべてを損得なく守ってくれる年上の女・加代と暮らしながら、つたなくいとおしい花とも付き合っている。同僚の寺内は二人称が「きみ」の、不思議な男だ。
夕餉:私・美々は家を出て、ゴミ回収作業員の絋のところへ転がり込んだ。彼の血肉となる食事のしたくに、喜びを見出している。
風味絶佳:志郎の祖母は自分をグランマと呼ばせる。志郎はガソリンスタンド(ガスステーション)で働いているのだが、しょっちゅうグランマが訪れるので困っている。
海の庭:日向の母は離婚し、二人は実家に戻った。そのときの引越の作業員は、母の幼馴染・作並くんだった。母と作並くんは初恋をやりなおしているように見える。
アトリエ:裕二は地下の汚水層の清掃作業員。とあるスナックに仕事で赴き、裕二は麻子に出会った。心がからっぽなのに重くて仕方がない麻子に、同情するのが気持ちいい。
春眠:章造の大学時代の思い人・弥生と、斎場の仕事に就く彼の父・梅太郎が結婚した。彼は、二人に割り切れない思いを抱えずにはいられない。
良い意味でいやらしい恋愛小説。密度高い。濃ゆい。糸をひくとろとろした蜜のようだ。狂気と隣り合わせの恋愛。当事者にはなりたくないけどな!
改行と句読点の打ち方が芸術的らしいので、今からまた読み返してみよう。ここで切るんだ! って思ったとこは確かにあったのよ。心に残るのだ、そういう場面。