Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

岡嶋二人『そして扉が閉ざされた』  ★★★☆

そして扉が閉ざされた
そして扉が閉ざされた
岡嶋 二人

「だして。ここから出して……」
「…………」
 出して?

「たとえよ。あなたの幸せのために周囲の人たちみんなが不幸なのと、みんなは幸せだけど、あなただけ不幸。どっちを選ぶ?」


 読み始めたらとまらない。朝、座れなかったので仕方なく電車の中で読みはじめた。一限目、いつもなら寝てしまうのにそのまま読み進めた。二限目、空き時間だったのでパソコンルームに行って読み終え、そのまま感想を書いてます。マジリアルタイム。
 本書は『99%の誘拐』『クラインの壷』と並んで、後期三部作と称されているようで。文庫で島田氏が言ってらしたんだとか。私が読んだのは例によってハードカバーなので、文庫も覗いてみようかな。ハードカバーの表紙には一昔前の四人の男女が写ってます。それもそのはず、これが発行されたのは1987年。私が生まれた年。しかし面白さはまったく色あせていない。99%ではパソコンが使われていたから時代遅れ感は否めなかったけど、こっちは全然時代関係ない。
 毛利雄一が目を覚ますと、潜水艦の内部のような部屋の中にいた。彼を起こしたのは鮎美。正志、千鶴もそこにいた。三ヶ月前に咲子に招かれた先の別荘で一緒になった彼らは、密閉された空間から脱出しようともがく。水とカロリーメイトだけでいつまで生き延びられるのだろう……。彼らを閉じ込めたのは、咲子の母・雅子。咲子は三ヶ月前、愛車・アルファロメオと海に突っ込み死亡した。四人はこの事態の原因となった事故の真相を暴こうとする。
 閉じ込められて、脱出の手立てがなくて、水とカロリーメイトでやっていかなければならない。しかも、四人の中に犯人がいると疑いながら。誰だって精神消耗しておかしくなるよね。閉じ込められる、というと若竹七海の探偵・葉村がコンテナに……ってのを思い出す。まあ、本書の方がまだましかも。
 引用の下の方の文章、本筋とは関係ないんだけど、私だったとしても雄一と同じく自分が幸せなのを選ぶと思う。でも、周りの人が皆不幸なのに、自分だけ幸せって確かにどんな無神経さだろうか。知らないほうが幸せって言葉もありますが。
 先日読んだ石持浅海『扉は閉ざされたまま』は、本書をもとにして(うまい言い方が出来ませんが)できたのだとか。なるほど、あっちは閉ざされた扉の外での、こっちは閉ざされた扉の中での推理合戦か。犯人は身内。どっちがより面白いか、と尋ねられたら答えられないなあ。両方読むことを強くお薦めします。

 

 犯人に自覚はなく、しかも雄一だったとはね! 語り手が犯人ってのはアンフェアだけど、気づいてなかったんだからものすごくフェア。しかも、殺害方法を自分で推理しちゃうんだもんな……この時の衝撃はいかばかりなものか。
 雄一が突き飛ばしたら延髄にアイスピックが刺さってしまい、鮎美は雄一を愛するが故にそれを隠そうと、核シェルターに放り込もうとする。すると、鮎美を愛する正志が殺人犯は鮎美なのだと信じて、アルファロメオとともに海に投げ出してしまう。皆が咲子の死の一端を担っている。千鶴も、咲子を煽ったのだから同罪か?
 咲子みたいな人は周りにいてほしくないなあ。