Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

姫野カオルコ『ツ、イ、ラ、ク』  ★★★★

ツ、イ、ラ、ク
ツ、イ、ラ、ク
姫野 カオルコ

 人は恋に落ちたとき、相手のどんなに小さなさびしさも見逃せなくなるのである。恋する相手はさびしそうに見えるのである。笑っていても暗殺者のように孤独な表情をそこに見出すために。


 ものすごい話だった。面白いとかではなく、すごい。そしてエロい。小学校~中学校、飛んで三十代と、同じ学校に通う生徒・先生が何人も語り手になるから読みにくいなあ、最後まで落ち着かないなあと思ってはいたけれどありあまってすごかった。
 忘れられなかった。どんなに忘れようとしても、ずっと。すべての人の記憶に眠る、官能の目覚め。狂おしいまでの恋の痛み、恋の歓び。森本隼子、14歳。地方の小さな町で、河村に出逢った。ただ、出逢っただけだった。雨の日の、小さな事件が起きるまでは。体温のある指は気持ちいい。濡れた舌は気持ちいい。それらが腰を撫でるのも、腹をすべるのも、背中を撫でるのも――。苦しかった。切なかった。ほんとうに、ほんとうに、愛していた――。一生に一度の、真実の恋。(Amazon
 主人公は隼子かな。早熟な統子、美少女京子、引っ込みがちな頼子、なんとなくかわいい温子、アイドルマミ、可哀相な愛、そして美術の小山内先生。リーダー太田、お調子もの塔仁原、じゃがいも桐野、恐ろしや三ツ矢、お子様坂口、弱い小西、そして若い国語教師河村礼二郎。
 幼い頃は日々が過ぎるのが遅く、濃密だった。それはよくわかる。サロンの概念、トップに位置する女王、そこにおける交換ノートなどなど。部活が終わって、一緒に帰ることがステータスだった。ほんと、帰るだけなの。他で会うことが全くないくらいに。私の通っていた小中学校ではよっぽどのことをしない限りそこまで激しいいじめはなかったが、明らかにヒエラルキーは存在していた。女バスが女のトップ。そこは変わらなかったな。
 ここまで激しくはなかったけれど、あの頃はどんなときよりも、男女ともに性への関心が高まっていたのは確か。ああ、濃ゆい……。本書とは違って、かなりオープンだったけどね。エロ本やAVが女の中でも回り、上映会をしたこともあるし(笑)、何故か廊下でいきなり「セックスとHは同じなのか違うのか」という論議をはじめたこともある。友達に処女が少なかったからかしら。
 あの頃に戻りたいとは思わない。中学生するのって、かなり大変だったもん。大学生は楽だ。社会人になったら、また大変なのかな。

 

 隼子が34になって、河村と再会。最後にくっついてハッピーエンドとなるわけですが、途中が苦しいわりに随分とハッピーだね。そういうの好きだけど。『疾走』みたいに苦しい苦しいで終わるよりは。