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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

池井戸潤『オレたちバブル入行組』  ★★★

オレたちバブル入行組
オレたちバブル入行組
池井戸 潤

「オレは基本的に性善説だ。相手が善意であり、好意を見せるのであれば、誠心誠意それにこたえる。だが、やられたらやり返す。泣き寝入りはしない。十倍返しだ。そして――潰す。二度とはい上がれないように」

「たまには正義も勝つ!」


 相当前のことだが、どこぞでお薦めされていたので。表紙とタイトルが印象的なので、図書館で見かけてすぐにわかった。その名の通り、バブルの時に銀行に就職した男・半沢が主人公。不良債権やら回収やら普段全く興味のないジャンルの話だったけれど、そんな世間知らずな私にも分かりやすく何より面白かったのでとても高評価。ストーリー展開としてはベタだが、やっぱりこうでないと! 痛快さを味わいたいからね! 苦しんで苦しんで最後までえらいこっちゃな奥田英郎『最悪』も面白かったとはいえ、やっぱり最悪だったからさ。主人公に感情移入するときっついんだ。
 半沢は産業中央銀行の融資課長である。大阪西支店は西大阪スチールに五億円を融資(担保のない“裸”で)したのだが、粉飾をしていて不渡りを出し会社は倒産。社長・東田は逃走。このままでは銀行は大変なことになってしまう。充分に稟議の時間を与えられず、支店長・浅野にゴリ押しされた結果の融資なのだが、全ての責任が半沢に押し付けられることに。必死で債権回収にのぞむのだが……。
 用語の使い方が間違っていそうだが、つまるところ「貸した金返せよ」って話。それが全て。金を取り戻すために半沢、部下の垣内や中西、同じく被害をこうむった会社社長・竹下らは奔走。責任転嫁したい浅野に副支店長の江島。何やら企んでいる東田、そして彼とつるむ男。いやー面白かった。半沢はちゃんと債権回収できるのだろうか、とハラハラ。名探偵が犯人を追いつめるのもいいけど、銀行員が融資相手を追いつめる過程もなかなかいいね。殆どが独身で浮世離れした名探偵より、家庭を持ち会社という組織に属する銀行員の方が現実味があるからかしら。父がこの立場だったら私どうなるんだろうとかも思うし。おお怖。
 東田とつるんでる男はまさかあいつじゃなかろうな……と考えていたらあっさり違いました。ミステリの所為で疑いがえぐい方向に向いがち。勧善懲悪がいつでも成り立つわけじゃないだろうし、そればっかりじゃ飽きるけれど、たまには正義も勝たないとやってらんねーよなあ。

 

 絶対、渡真利が黒幕だと思ったんだけどさ。こんなに良い顔しておいて、裏で全てを操っているみたいな……だめだめ。いい友達は信用しなくてはね。
 東田、浅野や木村に向かって半沢が啖呵を切るの、すごくかっこいい。ざまあみろ。跪いて足をお舐め! みたいな。まあ初っ端からこいつキレまくりだったけど。花も納得してくれそうでよかったですね。支店長、行員の妻の名前にまでは思い至らなかったのかしら。彼がこれから銀行を変えていってくれることを期待しつつ、後味のよいお話でしたこと。