Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

川上弘美『古道具 中野商店』  ★★★

古道具 中野商店
古道具 中野商店
川上 弘美
 ヒトミさん、おれ、なんか下手ですいません。タケオが小さな声で言った。
 下手って、なにが。
 なにもかも。
 そうでもないよ、わたしだって、下手だし。
 そうすか。あの。タケオは珍しくわたしの目をまっすぐに見ながら、言った。ヒトミさんも、生きてくのとか、苦手すか。

 やっと読めた。予約人数20人以上だったんだよね。川上弘美がそんなに人気のある作家だとは知らなかった。彼女の時間の進み方が好み。本書はちとゆっくりだったかも。描かなくてもいいようなふとしたことも描いてあって、そのお陰で登場人物の心情がより伝わりやすくなってるんだけど、もう少し早くてもよかったかな。
 登場人物は少なめ。主人公のわたし(ヒトミ)、中野商店の主・中野さん、その妹マサヨさん、一緒に働いているタケオ、中野さんの愛人・サキ子さん、主なのはその五人。わたしとタケオも言ってるんだけど、世間が狭いのね。こういう話読むと、狭くても素敵だなあとしみじみ思う。自分の好きなとこで働いて、落ち着いた日常を送って、つつましく生活して、不器用に恋してみたりして。いいなあ。
 相変わらず文字の使い方がツボ。ほわほわしたものがにじみ出ているよ。
 最近フォントが気になる。本書はやや古めかしい感じ。「ふ」が二画で書かれてたり、微妙に。文字と文字との感覚とかさ。本によって全然違うんだよねえ。それゆえ文庫よりもハードカバーで読みたいのです。勿論それだけじゃないけどさ。