Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

若竹七海『船上にて』  ★★★☆

船上にて
船上にて
若竹 七海
「どうして世の中って、こんなに偶然やら奇遇やらが転がっているのかしら。ある意味ではこれらのすべては偶然ではなく必然なのかもしれない。神の決めた確立を偶然と呼び、人知の及ぶところを必然と呼ぶなら、これは確かに偶然なのだけれど」(時間)

「憐愍と愛情の区別もつかないくせに、えらそうにごたく並べてひとを責めるんじゃねえよ、このタコ」(てるてる坊主)

 若竹七海一ヶ月ぶりだな! いつも棚は覗いていたんだが、びびっとくるものがなかったのでやめていた。というか、どれがシリーズ物だか分からなかっただけ……。本書は短編集。既読の中で、一番毒が強めでした。やっべえ超面白い(笑)
 時間:川村静馬は七年ぶりに大学を訪れた。彼が失恋した五十嵐洋子について、気になることがあったから。洋子は事故に遭って車椅子生活になり、結局死んでしまったらしい。
 タッチアウト:林田ゆかりは、妹のみどりの同級生・橋爪雪彦にストーカー紛いのことをされた挙句、部屋に侵入された。その際抵抗してバットで殴ってしまったのだが、結婚前の身だからとみどりが身代わりになってくれた。
 優しい水:あたしは気がついたら会社のビルの隙間に寝転んでいた。どうしてだろうと今日の出来事を朝から細かく追ってみるのだが……。
 手紙嫌い:志逗子は手紙が大嫌いなのだが、友人のつてで写真家と知り合えることになり、手紙を書かなければならなくなった。なぜここまで毛嫌いするのか考えてみると、辿り着いたのは祖父だった。
 黒い水滴:元夫・斉藤の葬儀のためにイギリスから帰国した私。義理の娘・渚を連れていこうとするが、斉藤の最後の妻が殺され、そうもいかなくなり……。
 てるてる坊主:広美と恭平と輝男は幼馴染。私が旅館に赴くと、竹垣の一帯にはブロック塀が。幽霊が出るからと、女将がこしらえたのだ。
 かさねことのは:高校時代の先輩・春田は精神カウンセラー。彼は八通の手紙をわたしに見せた。登場する五人の人物の中で、事故で死んだ人物と、殺された人物、彼らの間に何があったかを言い当ててみろと言う。
 船上にて:ニューヨークからルイ・ド・フランスに乗船し、欧州経由で日本に帰国する途で自分は、ジェイムズ・ハッターという元宝石商に出会い、とある本をもらった経緯を話してもらう。その間、彼の妻の甥・トマスは出港緒前にすごい宝物を手に入れたと自慢していたが、それが盗まれて……。
 いやー苦い苦い。タッチアウトから黒い水滴までの後味の悪さは素敵すぎる。ほんと、タッチアウトだよ……。てるてる坊主は綺麗に作者の思惑通りに騙された。船上にては何故か一つだけ毛色が違う、ちょっと良い話。でもやっぱり毒がいいよ! こういうのを堪らなく味わいたくなる時って、あるのよね~。
 後書きがちょっととぼけててそれもまたよし。今まで若竹七海のこういう文章を目にする機会がなかったもので。
 時間で描かれてる大学は彼女の出身大学である立教よね。私も見学に行ってパンフレットを貰ったのでピンときた。雰囲気のある校舎が魅力的だった。誰だって出身校には思い入れがあるから、知っているところが出てくると嬉しい。早稲田なんかは北村薫をはじめとしてすごく多い。