マリオ・バルガス=リョサ『チボの狂宴』 ★★★★☆
バルガス=リョサを無事に読了できたのはこれが二冊目! つまりすごく読みやすくリーダビリティがあり現実寄りのストーリーである、何てったって史実だからな。おすすめです。ただし性犯罪を女性視点で描く胸糞なパートがあるのでフラッシュバック等に注意してください。
- 作者: マリオ・バルガス=リョサ,八重樫克彦,八重樫由貴子
- 出版社/メーカー: 作品社
- 発売日: 2010/12/25
- メディア: ハードカバー
- クリック: 31回
- この商品を含むブログ (21件) を見る
1961年5月、ドミニカ共和国。31年に及ぶ圧政を敷いた稀代の独裁者、トゥルヒーリョの身に迫る暗殺計画。恐怖政治時代からその瞬間に至るまで、さらにその後の混乱する共和国の姿を、待ち伏せる暗殺者たち、トゥルヒーリョの腹心ら、排除された元腹心の娘、そしてトゥルヒーリョ自身など、さまざまな視点から複眼的に描き出す、圧倒的な大長篇小説! 2010年度ノーベル文学賞受賞!(Amazon)
締めにあの場面を持ってきたところでいくらか胸糞だった気分が(胸糞には変わりないんだけど)落ち着きました、そこに描かれた犯罪に対する作者のスタンスが否定的だったから……。しかしつらいよ。ウラニアの筋は、本書の中では唯一フィクションで付け加えられた登場人物群ではあるけど、本当につらい。ウラニアは村を焼くべき。
ウラニアに変わって村を焼きたいくらい胸糞だったフィクション筋はさておくとして、小説としては大したものでした、ノーベル賞受賞作家に向けていうことでもないけど。解説の「固く閉ざされた心を他者に開いていくプロセス」とはとても思えませんけどね。あれは。一生清算できないよ。
パラゲールが(どこまで史実なのか知りませんが)「国の民主化が進み、何もかも変化しつつあることを印象づけるには、過去を自己批判するしかありません」とラムフィスに説いているところ、国外の慰安婦像に過剰反応する方々は読んだ方がいいんではないでしょうか。
現代社会における文学の役割を「異なる文化や価値観の出会いとそこから生まれる葛藤を表現することで、読者の人間性に対する理解を深め、良識や感性を養い、現実に起こっている問題を自信の問題として受けとめられるよう促し、“自分の主張のみが正しい”とする狂信主義へと人々が傾くのを阻止する」と、それが「現代に生きる作家としてのみずからの使命である」と著者は発言しているようですが、さすがのアウトプットだねとしか言いようがないです。小説としてもすげえ面白いし読みやすいもん。翻訳も良かったと思います。ラテンアメリカ小説読んでてそんなに悪いものに行き当たった記憶はないが。
『都会と犬ども』では祖国に焚書されてたけど、こっちはドミニカ共和国でどういう扱いなんだろうね。色々と指摘はあるみたいだが、まあ焚書はされないんだろうな。笑