Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

桜庭一樹『私の男』  ★★★☆

 この本、はっきりと児童虐待の話なんだけれど(被虐待者の父親が娘を虐待する)、これを「禁じられた性と愛」なんて解説で書いちゃだめだろ。映画の時にも無批判に賛美するなって散々言われてたけどさ。この北上次郎の解説、赤朽葉の方に載せた方がいいよ。

私の男 (文春文庫)

私の男 (文春文庫)

 

落ちぶれた貴族のように、惨めでどこか優雅な男・淳悟は、腐野花の養父。孤児となった10歳の花を、若い淳悟が引き取り、親子となった。そして、物語は、アルバムを逆から捲るように、花の結婚から2人の過去へと遡る。内なる空虚を抱え、愛に飢えた親子が超えた禁忌を圧倒的な筆力で描く。(Amazon

 久々の再読でした。映画化で本がかなり流通したのか、100円で買えたので……。

 冒頭の件、一応作中で「君は子供だから」「やってはいけないことだ」と説いてくれる人はいるけど、小説自体がかなり倫理的に傾いているところに、それを賛美するような解説を載せるのは、現実に父親(養父)による児童虐待が少なくないことを思うと何だかなって感じです。但し書きつけておいたほうがいいよ。

 じゃあなぜ再読したのかというと、桜庭一樹の自己陶酔的な文章が嫌いではないからです。この本も小説としてはそこそこ好きなんだ。でもここに描かれているのは父親による娘への性的虐待だということをしっかり認識した上で解説なり宣伝なりしてほしいと思います。

 視点、こんなにころころ変わる小説だったかねえ。わたしは花視点の記憶しかなかったよ。だからこんなに認知が歪んでるのかと思いきや、小町さんもちゃんと「おかしい」と言っていたのね。

 あと時代+田舎だからかもしれないんですけど、男女の性役割の固定が強すぎるよな。小町さんの窓口業務の話とか、飲んでばっかりの男たちの世話を女たちが負わされる話とか。セクハラ満開だしな。当時の空気をありのままに描いているのかもしれません、この国もほんの少しは進歩しているのね……。尾崎視点で「僕の周りにいるほかの女の子たちも、父親の話をするときは、うちのお父さんったらね、と、どこかうれしそうに声が弾んでいる」と書いているの、めちゃくちゃ気持ち悪かった。いやいやいや。作者の父親との関係どうだったんだろうか。