Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

高村薫『レディ・ジョーカー』  ★★★★

マークスの山』『照柿』と読んできてようやくの『レディ・ジョーカー』、聞きしに勝るとは正にこの事でした。わたしは活字倶楽部読者だったと申し上げたら伝わりますでしょうか。いやーとんでもなかった。とんでもなかった。びっくりした。下巻の終章には本当にびっくりしてTwitterで実況中継をしてしまった。月村了衛『機龍警察 暗黒市場』ぶりのびっくりかもしれない(ブログに感想残してなかったけど、あれも心からとんでもなかった)。

 以下合田と加納の話しかありません。

レディ・ジョーカー〈上〉 (新潮文庫)

レディ・ジョーカー〈上〉 (新潮文庫)

 
レディ・ジョーカー〈中〉 (新潮文庫)

レディ・ジョーカー〈中〉 (新潮文庫)

 
レディ・ジョーカー〈下〉 (新潮文庫)

レディ・ジョーカー〈下〉 (新潮文庫)

 

空虚な日常、目を凝らせど見えぬ未来。五人の男は競馬場へと吹き寄せられた。未曾有の犯罪の前奏曲が響く――。その夜、合田警部補は日之出ビール社長・城山の誘拐を知る。彼の一報により、警視庁という名の冷たい機械が動き始めた。事件に昏い興奮を覚えた新聞記者たち。巨大企業は闇に浸食されているのだ。ジャンルを超え屹立する、唯一無二の長篇小説。毎日出版文化賞受賞作。(Amazon

 大手ビール会社(社長)に対する脅迫事件が本書の核となっています。上巻はほとんどバックグラウンドの説明であり、合田が登場するまでかなり待たされました。でも合田が登場した瞬間加納も顔を出し、JUNE、JUNEでしかない描写が白のスニーカーばりの眩しさで行われます。鮮やか。鮮やかです。この時点で読者は積読の選択肢が消えます。

 中巻になると大分合田視点も増えてくるんだけど、それでもやっぱり合田以外の視点が多い。ただ周辺から語られる合田の人物描写は魔性の一言なので、読み応えはあります、特に半田……半田、お前の執着具合はいったいどういうことなんだ、下巻でのあの爆発は。加納は一貫して語り手にはならないのですが、合田以外の数名からの描写があり、これもまたJUNEです。もはやJUNEとしか言いようがない、何か、もう、すごいよね高村御大……。

 ここからややネタバレになりますが、『マークスの山』は仏壇に手を合わせたくなるような、『照柿』はひたすら悲惨で目を背けたくなるような読後感だったところ、何と本書はほぼハッピーエンドです。なので、前2冊に辟易し、本書中巻まで読み進めてもう投げ出したくなってしまった人もぜひ最後まで読んでほしい。中盤はダレているから多少読み飛ばしてもいい。ハッピーエンド感を演出する最大の要因はもちろん合田と加納であり、これは本当にとんでもないです。歴史に残る描写だと思います。

 高村薫の読者層、活字倶楽部愛読者がかなりの部分を占めつつ、男性もそこそこ多いだろうと推察されますが、これだけ警察という組織のホモソーシャルっぷりを描いておきながら、最後の落とし所がそこで、納得いただけたのかしら。二人の十八年間にわたる付き合いについて、それだけの描写を積み重ねてきたということでいいのかしら。いやはや混乱して文章が書けなくなっていく。

 高村薫の文章はどちらかというと好きではない部類だし、フェミニストとしてあれほどガチガチに性役割を固定されるとしんどい、到底受け付けられない、反感を覚えるところも多々あるけど、合田と加納の結末には、それを差し置いても読むだけの価値があったという判断を下します。書いてくださってありがとうございました。

 社会派の作家に対してこんな感想って無いよな!笑 題材はグリコ・森永事件とのことですが、わたしは事件の詳細は知らなかったから思い当たらなかったし、レビュー等も読まずに読んだので、後から調べてこんなに細かく反映させていたのねと驚きました。警察の焼身自殺とか。事件のこと知っている人が読んだらきっと結末も分かったのだろう。だからこその合田加納爆弾だったのだろうか(違う)