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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

坂口安吾『桜の森の満開の下・白痴』  ★★★★☆

桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

 

桜の森の満開の下は怖ろしい。妖しいばかりに美しい残酷な女は掻き消えて花びらとなり、冷たい虚空がはりつめているばかり―。女性とは何者か。肉体と魂。男と女。安吾にとってそれを問い続けることは自分を凝視することに他ならなかった。淫蕩、可憐、遊び、退屈、…。すべてはただ「悲しみ」へと収斂していく。(Amazon

 例のごとく文豪失格 (リュエルコミックス)を読んでいたら作者の千船さんがTwitterで「戦争と一人の女」「私は海をだきしめていたい」を推していらしたので、Kindleで色々ダウンロードしてみたらものすごく文体が好みなことに気づいた。それで青空文庫収録の小説は大体読みました。

 あの時代の文豪の中では平易な文章を書く方ですね。私小説めいたものがほとんどなので、こいつ女のことを何だと思ってやがるんだ……とジェンダー的には超アウトなんだけども、明らかにアウトだと自覚しているっぽいだけ抵抗無く読めるところはあります。川端康成の普通っぽい小説(雪国とか)だと、一見普通っぽいがゆえにそこここに散りばめられた女性への蔑視が沁みます。でもあの人、『眠れる美女』とか書いてるんだから大概変態なんだろうな。まだ読んでないけど。

 安吾の話に戻ると、「夜長姫と耳男」、これがある意味一番感心したかもしれないです。すっごい砕けた文体で書いてあるのね、本当、最近書いたと言われてもおかしくないくらいに。基本が大事ですね。きちんとした文章を書ける実力が根底にあるからこそ、ここまで砕けたものが書ける。分かります。分かっていますとも。できないだけです。