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Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

G. パスカル・ザカリー『闘うプログラマー』  ★★★★

1980年代にMS-DOSをもってデスクトップ型のパソコン市場を制したマイクロソフト社は、90年代、高性能コンピューターのための「本物」のオペレーティング・システムを開発するプロジェクトを立ち上げます。本書は、同社の世界戦略を担ったOS「ウィンドウズNT」の開発物語です。ウィンドウズNTは後にウィンドウズXPの基盤となり、信頼性の高いOSとして世界中のユーザーに使われることになります。

このプロジェクトのため、同社に「伝説のプログラマー」が呼び寄せられました。彼の名はデビッド・カトラー。形容する言葉も見つからないほど強烈な個性を持つこの男を主人公に、開発者たちの壮絶な人間ドラマが展開します。100人を越える関係者とのインタビューに基づき、凄絶なソフトウェア開発の実態が赤裸々に描き出されています。本書は、単なる企業内の開発ストーリーという範疇を超えた、ノンフィクションの名作と評価されています。(Amazon

 面白かったです。偉大なプロダクトを生み出す(IT)企業にはワークライフバランスなんて存在しないことがよくわかります。絵に描いた餅です。だいたいどんな本を読んでも書いてあることは同じ、超優秀な人間を集めてプレッシャーをかけ長時間労働をさせる(あるいはそもそも指向している人物を選んでおく)ことです。

 ITど真ん中ではないながらも関連企業に属している身として何となく身近に感じることもありつつ(書くのはまだいいけどテストは死ぬほど面倒だし終わりがなくて本当に嫌だなあとかw)、どんなものも、こうして一行一行コードを書いて出来上がったものをテストしてバグを潰して……という終わりのない行程によってできてるんだなあと、とにかくどっと疲れました。よくプロジェクト要員に死人が出なかったな。

 本筋とは離れたところでも面白い箇所がちょいちょいあって、特に最後の方の、投資用にコインランドリーを買って辞職したテスターの話と、「自分でできることはほとんどない。全員をはげまし、ピザを注文することができるだけだ。ピザをもっと頼もう……」っていうペダーソンの独白に吹き出した。ピザやドーナツ等いちいち小道具がアメリカンで(当然である)、日本だったらここはラーメンだろうかと考えたりした。心から、もっとまともなことを考えたい。アジアでしか暮らした事のない日本人にとってあまりにも文化的にアメリカンすぎて、それがジョブズの評伝みたいに一人にフォーカスされたものではなく、かなり多くの人物について述べられていたので、どうしても吹き出してしまった、ピザ……。

 長時間労働と大きなプレッシャーに参っているマイクロソフトプログラマー一同が、スカッシュ、空手、ジョギング、スキーと、健全にもほどがあるストレス解消に走っているのも面白かったし、終了後に「アマチュアのボート選手になるために辞職」する社員が出てくるのも面白かった。最近読んだ何かの本にも(記録してすぐに忘れる)、著者自身がすごく著名なライターだか教授だかであるのに加え、パートナーの女性がトライアスロンに集中するために仕事(もちろん超優秀)を辞めるってくだりがあって、しかもその後チャンピオンになっていて、もう天晴としか言いようが無い。アメリカ人すげえよ。

 文章的には微妙、となってしまうのがわたしが英米の翻訳小説の水準を翻訳全体に求めすぎていることが原因だとは分かっているんだけれども、科学系大衆書籍であればもうちょっとこなれた翻訳だったりしないっけ? 青木さんとか? もうしばらく読んでないけど……読みたいなあ。