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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

ピエール・ルメートル『その女アレックス』  ★★★★

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。(Amazon

 面白かったです。読み始めたら止まらない系だから、みんな寝る直前に読むのはやめような。

 感想としては、お疲れ様でした! もうネタバレを避けて言うことがあるとしたらお疲れ様でしたしかない。お疲れ様でした……安らかにお眠りください……。お疲れさまと、ぶっ殺してやりたいと、アルマンGJってところですかね。アルマンのドケチ描写は犯罪の域に達していたのでラストはよかったです。こういうのあると帳消しになるんだよ。笑 あとルイは絵に描いたようなホイホイでした。

 構成が大事な話だから何も言えないのだけれど、文章的にはあっさり目で嫌味ったらしい言い回しもない(翻訳のせいもあるかもしれない)から、解説にあったような「描写が細かく繰り返しが多い」のが気にならず、テンポは速いままです。シーンの切り替え方やちょっとしたカットが挿入されるところ、すごく脚本っぽいな〜と思った。エンタメとしてもストーリーの核心も大変面白かったけど、小説としての好き嫌いを問われたら星四つかな。

 フランスの警察・司法まわりの予備知識皆無なので、予審判事というものが、逮捕段階からこんなに現場レベルで関わってくるのか〜と面白く読んだ。この人がオーケー出したら突入しなきゃいけないし被疑者の拘留も一存なんだ? あと階級社会がはっきり出てるの、これはイギリス文学もそうだ、ルイの人柄が「家族の遺産だ」って言われているじゃないですか。まあ生まれ育ちがはぐくむものって明らかにあるよね。これだけの教養はもちろん、ハビトゥス、思考……。聞き込みに行った先の人の描写が、ウッドハウスなんかとほぼ変わらないわけですよ。何かねえ〜。そのへんと比べたら日本なんて全然ゆるいけれど、これはWW2であらかた燃えたからかね? 前は日本でも華族とか爵位とかあったよね?

 あともう一歩でブラヴォ!!! だったのがとても残念だから(わたしの感情的に)、代わりにアレをぶっかけにいきたいよ〜。もうサクッと。サクッとやろうぜ!!! もう!! 許さん!! ああなっても許さんぞ! ブラヴォと言い切ってもいいのかもしれないけど!! これは最高の結末かもしれないけどさ! でも私は言いたくないんだ!

 

 下記ネタバレ。

 アレックスの結末以外、読者の引っかかりを潰してくれたおかげで読後感は思ったほど悪くないんだよね。トマも母親も逮捕されるのはじゅうぶん分かったわけで。締めをアルマンのエピソードにするのもそうだし。

 しかし虐待描写が残虐すぎてもう、もうね……トマのこともぶっ殺してやればよかったのに!!! 許せん! 女性主人公のリベンジ小説がここまで売れるのはめでたいことですけどね!!! 許せん!!!! フランスはもちろん死刑の無い国だから、無期懲役……にもならないか実質一人の殺害じゃあ。一番に酸を浴びせてほしかったよ……。アレックスには生きてほしかった……自分の死をもって復讐をするんじゃなくて、生きたまま高飛びして幸せになってほしかったんだよ……もう生きる理由もないところまで追いつめたのはヤツらだけど。警察組は分かっていて罠に嵌めたって認識でいいんですかね、「正義」ってのは。

 これ映画化するんだね。まあやりやすいだろうと思いますよ。少し見たい。小説でこそ、というメリットがある書き方じゃないと思うし。ぜひともパリで、フランス語で撮影すべき。