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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

津村記久子『まともな家の子供はいない』  ★★★★

まともな家の子供はいない

まともな家の子供はいない

「一週間以上ある長い盆休みはどう過ごせばいいのだろう…気分屋で無気力な父親、そして、おそらくほとんど何も考えずに、その父親のご機嫌取りに興じる母親と、周りに合わせることだけはうまい妹、その三者と一日じゅう一緒にいなければならない。…」14歳の目から見た不穏な日常、そこから浮かび上がる、大人たちと子供たちそれぞれの事情と心情が、おかしくも切ない。(Amazon

 表題作は中学生女子を主人公にしただらっとした中編でそこまで乗り切れなかったんだが、これを読まずして「サバイブ」に行ったら楽しさ半減なので、二つとも読まねばならなかったんだな。面白かったです。

「サバイブ」、これ重いなあ……。セキコが常に家計のことを考えておらずにはいられない状況に置かれているのに対して、いつみの振る舞いのブルジョワさよ。いつみの母親が電車を乗り換えて訪れた先については、神戸くらいしか思いつかないので神戸としますが、彼女は迷いなくオシャレカフェに入って高いと文句をつけつつもデザート食して帰ってくるし、後でキャッシュバックしてもらうにしてもドラッグストアで風邪薬と水を買えるし、佐伯先生に「奢りますから」と言えるし、これ、セキコにはどれも出来ないことだと思うんだよな……。

 しかし佐伯先生怖かった。いや、いつみの相談への反応はまっとうなんだけれど、怖かった。佐伯先生はあの時点では先生でないのだし、先生だからといって生徒のことを全部受け止めるわけじゃもちろんない、都合のいい時だけ使うってのはいかがなものかと思うけど、しかし怖かったな!笑千花が沙和子に言った「ざまあみろでしょ」も、あああれはひどいよ、仮にも母親として接した頃があったんではないのかと思いつつ、母親というベールをかぶせて八つ当たりすら許さないのはおかしい、しかし、あれは私だったら泣いている……と打ちひしがれたりしていました。

 我が家はセキコみたいに子供が家計の心配をしなければならなかった家庭ではなく、いつみのような若干ブルジョワっぽい感じでもなかったんだけど、心配をしなかったという意味では&専業主婦の母がいるという点で後者なので、働く父親の不在というテーマには共感しにくいのかもしれない。津村さん自身が前者の家庭だったから、ものすごく多いんだけどね、父親が働かない家で育った女性視点の話は。

 あと、津村さんの話ではしばしば語り手やらそのサイドに立つ者が、最後の方で溜め込んでいたものを暴露して周囲を凍りつかせるシーンがあり、私はそのカタルシス(と呼ぶには語弊がある何か)がとても好きです。よく言った! と喝采すらしている。笑

「あんたは自分が変わってると言われたいがために娘に変な名前をつける人間なんだな」ってすごい刺さるな、子供いないけど。