Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

貴志祐介『新世界より』下  ★★★★

八丁標の外に出てはいけない―悪鬼と業魔から町を守るために、大人たちが作った忌まわしい伝説。いま伝説が、「実体」となって町に迫る。新しい秩序とは、おびただしい流血でしか生まれないのか。少女は、決死の冒険に身を投じる。(Amazon

 結局3時間くらいかかった気がするな! 面白かったです!
 アニメ化にあたってBL百合情報ばかり入ってきており、先入観があったんだけれど(もっと明らかにSFで『BGあるいは死せるカイニス』みたいなノリかなあと)、そこはまったくの枝葉でしたね。話題作りにはなったかもしれんが、その分読者を弾くことにもなりうる。ってのはアニメ・ドラマ化のターゲットは原作と違うってやつかな。私もノー先入観で本書に手をつけていたら読むのやめてたかもしれない。ミノシロモドキがでてくるまではファンタジー色が強いから。
 呪術を操れるようになった人間と、人間の許可の元で暮らすバケネズミという遺伝子操作された生物とのあれやこれやなんだけど、最後は完全にバケネズミ側に移入してしまうので(最後の一行もあるし明らかにそう仕向けられてる)、物語と距離を取れない没入系読者(私)にはしんどくもあった。人間側の言い分がもう完全に植民地主義なんだよ。私たちはそれを長いこと、現在進行形でやっているわけである。ごめん不勉強でポストコロニアリズムについては分からないの……あるいは忘れてしまったの……。これからも異類から自分たちを差別化することで栄えていくつもりなのだとしたら未来は明るくないなあw
 本そのものは、表現が平易で戦闘描写が多い(バトル目当てじゃないと多すぎるくらい)のでとても読みやすい部類です。本人による手記形式だから、結局は安心して読めるし(思わせぶりな文章にはときおり苛立つ)。分厚い上下巻ではあるけれど、一段組だから量的にはさほどないはず。週末の読書にはオススメ。BL百合部分は期待しないが吉でしょう。大して情熱を感じません。ボロボロになって駆けずり回ってる部分がかなりのウエイトを占めるし、あのアニメの絵柄はそぐわないと思うんだが、どう料理されたんでしょうね。
 長編を読み終わって、ああ面白かった、と言えるのはいいとこだ。奇狼丸はイケメンでございました。