Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

中山可穂『サイゴン・タンゴ・カフェ』  ★★★☆

インドシナ半島の片隅の吹きだまりのような廃墟のような一画にそのカフェはあった。主人はタンゴに取り憑かれた国籍も年齢も不詳の老嬢。しかし彼女の正体は、もう20年も前に失踪して行方知れずとなった伝説の作家・津田穂波だった。南国のスコールの下、彼女の重い口から、長い長い恋の話が語られる…。東京、ブエノスアイレスサイゴン。ラテンの光と哀愁に満ちた、神秘と狂熱の恋愛小説集。(Amazon

 いつもの長編とは毛色の違う短編集だったけど、中山さんが好きな要素はあちこちに詰まっていたかな。メインはタンゴでたまにサイゴン(笑)最後の二編になってようやくサイゴンへ! 「バンドネオンを弾く女」は8月に遊びに行ったホーチミンが舞台だったので懐かしくて面白かった。バイクタクシーで市街から空港まで連れてってもらったな。
「フーガと神秘」、フェミニズム運動に片足突っ込んでた女(就労中)が夫に対して「仕事にも理解を示して、家事も率先的に手伝ってくれる」「仕事にかまけて夫をさびしくさせてきたという負い目」なんて言うかしら。そんなもんなのかしら。中山さん自身はフェミじゃないと思うけど。
 ラストに配置された表題作の作家と編集者の話を読ませたあと、あんな後書きを持ってくるもんだから思わず泣いたじゃないかw 彼女の作家と編集者の話を読むのは二度目だが、恋愛同様生きるか死ぬかの関係なのね(本書の方は元々恋愛色が強いけれど)。私自身はブエノスアイレスにそんなに惹かれなかったので、ベトナムネタの方が親身に読んだ。一番好きなのはやっぱりトルコネタかなw
 老いや介護や看取りといった、特に女性同士の恋愛小説では避けられがち(ってのは読んだことのほとんどない百合イメージが強いだけだろうか)な要素は、ある程度お年を召した(失礼)生粋恋愛体質の中山さんだからこそかなと、表題作読み終えて思った。正直最後のインパクトが強くて他がかすんでますね!