Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

米澤穂信『折れた竜骨』  ★★★★

 ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。
 自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、「走狗(ミニオン)」候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上の牢から忽然と消えた不死の青年――そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ? 魔術や呪いが跋扈する世界の中で、「推理」の力は果たして真相に辿り着くことができるのか?
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毎度のことながら読み始めたら最後まで読んでしまった。展開の遅さにイライラすることはままあれど、文章が読みやすいからさっさと読み終われそうで切り上げどころがない、というのは長編がうまい要素の一つとして数えられるのかしら。
 本書は12世紀ヨーロッパを下敷きにしたファンタジックな舞台で起こる雪の山荘型殺人事件なので、古典部シリーズ長編(特に『二人の距離の概算』)に感じるような物足りなさはなかった。というか、とても面白かった。米澤さんもっとこういう非現実を舞台にした話書けばいいのに! 現代の服装センスがズレてる(率直に言えばダサい)米澤さんには、ファンタジーやSFなどの非現実ものが向いている!
  翻訳調を目指した文体については、最初の方でこそああ分かる分かるとなったもののの、途中からまったく違和感がなくなり、どうしたって日本語母語者よなあと(笑)やっぱり自然ですよ。一度入り込めば気にならない。いや、そのへんは翻訳者にもよるけども!
 ファルクとニコラの師弟コンビやトーステンは印象に残ったけど、語り手であるアミーナの個性は伝わってこなかったな。説明する側になるとなかなか難しいよな。探偵&助手(=書き手)ものだと、お互いをよく知ってる二人のやりとりが描写されるのでよく分かるんだが、アミーナと行動を共にしていたのは外部から来た師弟コンビだもんな。語り手が自身の行動や思考を述べるだけでは弱いなと思う。
  師弟コンビはちょっと萌えますね。ニコラは成長したらいい男になるだろなー。数年後にアミーナのとこに戻ってきたら何か弾けるんじゃないかね。

 

 ミステリ的に、あの八人の中にいるはずない! 叙述だろ、アミーナが操られてたんだろ! と思って読んでいったらファルクさんでしたよ。ああいう形でニコラに殺させるというのは想定してなかったので愉しかったです。