Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

本多孝好『チェーン・ポイズン』  ★★★★

チェーン・ポイズン
チェーン・ポイズン
本多 孝好
 誰にも求められず、愛されず、歯車以下の会社での日々。簡単に想像できる定年までの生活は、絶望的な未来そのものだった。死への憧れを募らせる孤独な女性にかけられた、謎の人物からのささやき。「本当に死ぬ気なら、1年待ちませんか? 1年頑張ったご褒美を差し上げます」それは決して悪い取り引きではないように思われた――。新境地を開いた驚愕のミステリー。(Amazon

 本多さんの文章が本当に好きだな。もう理屈じゃないな。中身がどうであれ、文体だけで気持ちよくなってしまうわ。端整だわ。単純な文章力自体は確実に向上している。中身が悪いと言っているのではなく、この話に関して言えば中身も端整であった。
 Amazonの著者からのメッセージによると本書は、自分の「匂い」を消していくことに多少なりとも成功した作品のよう。確かに、中心人物の一人称に「僕」がいなかったり、ミステリ色が他と比べ強めだったり、本多さん=清潔感のある青年・僕視点で物語が進んでいくイメージとはちょっと違ったかも。でも……ばっちり本多さんの香りがするよー(笑)『正義のミカタ』と同じ系譜で、考え方がよく表れていたし。白を連想するのは病院モチーフかもね。
 最後まできれいにまとまっていてよかったと思う。後味も仕掛けも。遠くない日に新作にお目にかかれますように。