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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

テリー・ビッスン『ふたりジャネット』  ★★★★

ふたりジャネット (奇想コレクション)
ふたりジャネット (奇想コレクション)
テリー・ビッスン,中村 融
 本邦初のテリー・ビッスン短篇集。サリンジャー、ピンチョンら有名作家たちが続々と田舎町に引っ越してきた? 英国が船みたいに動きはじめた・ 万能中国人がヘンテコなす牛木で事件を解決? そんなばかな話ってある? 屈指の技巧派にして短篇の名手ビッスンが描く物語は、まさに現代の“ほら話”。ヒューゴー賞ほかアメリカ棋界の賞を総なめにして、一躍その名をとどろかせた名作ファンタジー「熊が火を発見する」をはじめ、ショートショート「アンを押してください」、ロマンティック・コメディ「未来からきたふたり組」、盲目の画家が死後の世界で見たものは…「冥界飛行士」、“万能中国人ウィルスン・ウー”3部作「穴のなかの穴」「宇宙のはずれ」「時間どおりに教会へ」など、全9篇を収録。ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞、デイヴィス読者賞、スタージョン記念賞受賞。

 これはチャーミング! こんなチャーミングなSF初めて読んだ! 心からかわいいって思える短編がいくつか。特に万能中国人ウィルスン・ウーのシリーズはにこにこしてしまった。最初は読点が多めなせいか文章のリズムが合わないのか、読むのが楽しくなかったんだけど、いつの間にか慣れてた。
「熊が火を発見する」はまさに奇想。短編集のしょっぱなから飛ばしてる。“熊が火を発見する”んだよ! すごいよね。数々の賞を総なめにしたのも頷ける。こりゃすごいよ。焚き火の暖かさが眼に見えるようだ。「未来からきた二人組」はベストオブチャーミング。何ていうか空気がキラキラしてますね。笑顔になる。「英国航行中」もほんと奇想だよ。これはSFというかファンタジーっぽいね。雰囲気ちょっと時代がかってるし。「ふたりジャネット」、知ってる名前もあったけど私疎いからなあ! 「冥界飛行士」はLAD(ライフ・アフター・デス)ということで、『航路』を思い出しながら。人によって解釈が違って面白いねえ。
 シリーズの「穴のなかの穴」「宇宙のはずれ」「時間どおりに教会へ」は一緒にまとめてくれてありがとう! だ。語り手はウーの友人である弁護士のアーヴィン。かなりくだけた口調。探偵:ウー、助手:アーヴみたいな感じで話が進むのね。ウーは何でもできる万能選手で186センチの長身、アーヴに言わせると「だれもがウィルスン・ウーのような友人を持つべきだ」そうです。
 誰もがウィルスン・ウーのような友人を持つべきだ。彼はクィーンズで育ち、ブロンクス科学学校で物理学を学び、パリでパン職人の修行をし、プリンストンで数学を修め、香港で漢方を習得し、ハーヴァードだかイエールだか(いつも混同しちまう)で法律を専攻した。NASA(とにかく、グラマンだ)に勤め、それからリーガル・エイド法律事務所に勤めた。身長が一メートル八十六で、ギターを弾くことはいったっけ? おれたちはブルックリンの同じブロックに住んでいた。ふたりともヴォルヴォの持ち主で、月に行った仲だった。やがておれはキャンディに出会い、アラバマに引っ越した。ウーはリーガル・エイドをやめて、気象学(メテオロジー)の学位をとった。
 そいつは隕石(メテオ)についての学問じゃない。(宇宙のはずれ)

 繰り返しのジョークと、ウーとアーヴの会話の妙に笑った。
「アンを押してください」はよくわかりませんでした。劇で見たい。
 著者はハードSFが好きだそうで。この短編集についてはそんな印象ないけどね。ウーのよこす数式は見る人が見れば分かるのかな?