Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

松浦理英子『犬身』  ★★★☆

犬身
犬身
松浦 理英子
 カテゴリ微妙だったけどストーリーが面白かったのでエンタメにしてみた。昨日の夜、久しぶりに小説をと思って読み出したら止まらなかった。文章は美しくないけど小説の醍醐味はストーリーだよな! と思わせてくれる一冊だった。いやあ単純に楽しむための読書は久々だ。

 あの人の犬になりたい。そして、人間では辿り着くことのできない、心の深みに飛び込んで行きたい。「自分は犬である」と夢想してきた房恵が、思いをよせる女性の飼い犬となるため、謎のバーテンダーと魂の契約を交わす。ところが、飼い主の家族たちは決定的に崩壊していた。オスの仔犬となった「フサ」は、彼女を守ることができるのか? 『親指Pの修業時代』から14年。今、新たに切り開かれる魂とセクシュアリティ。(Amazon


 犬に生まれるべきだったと種同一性障害を自認する房恵。理想の飼い主とであった彼女が、化け物じみたバーテンと契約交わして犬に変化する。犬に! 私も犬を飼ってるけど、そんな細やかな愛情を抱いてはいないな。立派な家族だけどさ。もういて当たり前みたいな。
 犬に高潔さを見出すというか、人間と一緒にするなよって気持ちはちょっとわかる。人間は生まれたときから罪背おってんだから他の動物と一緒にしないでよ(笑)私は異種混合譚が好きだけど、非人間の方も擬人化する傾向があるからなあ。房恵ほどにはなれないなあ。でもセックスの介在しない・する余地のない関係はいいと思う! 牛とできるなら犬ともできそうだけどさ。
 悲惨な梓と親身に心配するフサを見ていると、こっちまで胸が締め付けられたり苛々したりしますね。いつ崩壊するんだ……と恐る恐る見守っている感じ。ぐらぐら揺れてるのは面白いんだけど、心臓には悪いな。あんな家族私だったら願い下げだけど、そんな仮定は「虚勢手術を受けなかったら」と同じくらい意味がないね。
 ラストにかけて、これページ数足りないのでは? とひやひやした。でも思いのほか、というかかなりいい気分で読み終えることができました。よかったよかった。
 我ながら分かりやすい趣味だと思いつつ朱尾さんにラブコールを(笑)何考えてるか分からない冷淡な化け狼? 最後の最後に甘いところを見せちゃったりして? 何それ、ずるすぎる。端々に滲む弱みらしきものもおいしすぎる。久喜さんも好きだな。へそのゴマには辟易しますが。

 

 出所した梓と生まれ変わったフサが幸せに暮らせますように! あんな家族とは別れて正解だよ!
 フサが性的欲求を抱いて魂取られて終わり、となるかと思ったけど、朱尾さんが想像以上にいい仕事しましたね。彼も寂しいんですかね。かわいいですよね。