Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

森鴎外『雁』  ★★★

雁    岩波文庫 緑 5-5
雁 岩波文庫 緑 5-5
森 鴎外
 よかった。お玉の恋心はどうなるの! と最後まで読んでしまった。
 生まれてすぐに母を亡くし、貧困の中で父親に育てられたお玉は、高利貸末造の妾となり、上野不忍池にほど近い無縁坂にひっそりと住んでいる。やがて、散歩の道すがら家の前を通る医学生岡田と会釈を交すようになり……。鴎外の哀感溢れる中篇。(Amazon
 非常に整っていて読みやすい文章だった。一文一文が。安吾宮沢賢治を読んだ後だったから尚更(この二人の文章って読んでると何言ってるのかわからなくならない? 全部じゃないけど)。お玉の顔が赤くなる描写などが美しくてあーいいわーと思いながら読んでた。漱石と同時代の人か。漱石は柔らかい感じだけど鴎外はかたいね。超エリートの軍医だったそうで、頷ける。
 んもう時代がいいよね。もし設定を現代にしたら魅力の八割は飛ぶと思うよ(笑)つまりは闇金屋の愛人になった女が美丈夫な東大生に恋心を抱くも彼は留学してしまったのでした、ってことだもんねえ。手が届きそうで届かなかったお玉ですが、それでよかったと思うよ。一度おいしいもの食べたらもう末造に戻る事なんてできないでしょうし。すれ違い万歳。
 上野界隈に親戚がいるので想像しやすかった。無縁坂の話もこのまえ父から聞いたばっかりでタイムリー。
 解説には、視点の変換や何やかやと新しい手法を取り入れたんですよこれでも、とあったけど、時代は変わったんですねえ。目新しさは全く感じず。ミステリ好きだからなあ。視点使ったトリックは日常茶飯寺だし、偶然もなあ……偶然のうずたかく積もれた山じゃないか。ミステリ。
 あと、雁は鴎外の中で最も小説らしい小説だとか。他既読なのは舞姫くらいだけど、それじゃあ私は他の読めないなあ。小説らしい小説が大好きなもので。
 最後の一文が解読できず、僕はお玉の情人になったんか!? と思いましたがどうやら違うようで。自分の馬鹿さを露呈して終わる。