Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

島本理生『ナラタージュ』  ★★★

ナラタージュ
ナラタージュ
島本 理生
「卒業間際の感傷なんてふざけたことを言わないで。あの日から私はずっと同じ場所にいます。そして、あなたから連絡が来るのを待っていた。それでもあなたは思い込みだって言うんですか」

 いろんな場所に出掛けたし、一緒に食事をしたり抱き合って眠った、つねに小野君よりも葉山先生のほうが好きだったなんて、本当はそんなわけがない。だけど言えなかった。

「本当に?」
 この顔だ、と思った。少年のように無防備な喜び方、そして私は痛烈に実感する。
 この人からはなにも欲しくない。ただ与えるだけ、それでおそろしいくらいに満足なのだ。

 一時期ものすごく話題になって、予約しても全然回ってこなかった。連絡をちゃんと受け取ってなかったのか、いつのまにか取り消されてたけど。刊行から二年が経ち(!)先日普通に棚に並んでいたので借りてみた。
 壊れるまでに張りつめた気持ち。そらすこともできない――二十歳の恋。大学二年の春、片思いし続けていた葉山先生から電話がかかってくる。泉はときめくと同時に、卒業前に打ち明けられた先生の過去の秘密を思い出す。これからもずっと同じ痛みを繰り返し、その苦しさと引き換えに帰ることができるのだろう。あの薄暗かった雨の廊下に。(Amazon
 私自身も二十歳の大学生ということで親近感を抱きつつ。泉は高校の演劇部で同級生だった志緒と黒川、黒川の友人の小野の四人で大学生らしいことしてるんですよね。人の家で酒片手に喋ったり、ファミレスで溜まってみたり。私は自分を泉に重ね合わせることは出来なかったけど。
 途中までは小野君に言い寄られる泉を羨ましく思っていて。小野君って所謂「文科系女子」(笑)のツボを押さえた造詣してるじゃない。すっきり清潔感があり、手足が長く、ソツがない。落ち着いた喋り。でも突発的に煙草吸いたくなったり。それ何てドリームですかっていう。後半の小野君の変化には驚いたものの、そんな部分も含めてドリームですねっていう。正直言うとそれ以降、登場人物を他の作品のキャラクターに当てはめて読んでしまって、副次的な萌えまで頂いていたのですが(笑)
 二人が餃子を作る場面、あるある! と思いました。私も昔二人で餃子作ったよ! あと、制服のポケットから携帯のストラップが出ている描写な、自分もこないだまで高校生だったのに(反論は許さない)忘れていたことをぽろりと書いてくれる人ですね。忘れちゃ駄目なんだな。
 先生と生徒の恋。ベタっちゃベタだね。しかし行き場のない思いとか、片思いとか、報われない感じ、そういうのは本当に好きなので。ラストにかけて、皆の心の揺れ幅が大きくなっていくにつれ、面白くなった。
 柚子ちゃんについては安易な気もしなくはないけれど、全体の落ち着いた雰囲気と、たまに灯る熱が好みでした。
 文章について思うのは、そんな上手い人ではないなと。あと、結構不自然な文の繋ぎ方(一つの文の中で)するよね。でもこれは意識的にやってんのか。一見ちぐはぐな言葉遣いというか形容の仕方をしている部分は、妙に納得がいく感じで良いです。