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続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

ローワン・フーバー『脳とセックスの生物学』  ★★★★☆

脳とセックスの生物学
脳とセックスの生物学
ローワン・フーバー, 調所 あきら
 カタツムリは両性具有、つまりひとつの身体にオスメス両方の性機能を持っている。魚類のなかには、成長のある時点ではオスとなり、別の時点ではメスになるものがあるけれど、カタツムリはそれとは異なり、同時にオスでもありメスでもある。キューピッドの矢の交換を終えると、二匹はそれぞれのペニスを相手のメスの生殖器に挿し入れ、両方が相手の精子を受けとる。精子は消化される場合もあれば、卵子の受精に使われる場合もある。
 ねっとりとした親密さ? とんでもない。

 進化論の理論家たちは、もしオスの妊娠が起きるとすれば、性役割の極端な逆転が起こり、メスは自由になって、オスが通常やるようなことをしはじめるだろうと、早くから予言していた。そうして2001年12月になってようやく、メスのヨウジウオがほんとうに“ノーマルな”動物種のオスのように振舞うことが確認された。メスたちは互いに激しく争い、オスを惹きつけるために求愛行動をする。そして、そう、彼女たちは多くの異性とセックスしまくるのである。

 金銭は平均寿命に強い影響力をもつ。ほかに何が影響するかを確かめるために、トマスと同僚たちはまず金銭の影響を統計的にコントロールし、(中略)こうしたもろもろを処理して見つかったのは、人類は生活史理論が予測するパターンに従うということだった。これら153ヵ国のデータでも、英国貴族とショウジョウバエに認められたのと同じパターン、つまり生殖と寿命のトレードオフ関係が見いだされたのである。多くの子供を産んだ女性は、寿命が短い。

 平均身長の男性は、186センチの男性よりも子供をもうける率が低い傾向がある。健康状態や社会的ステイタス、教育水準などその他の複雑な要因を考慮にいれても、この差異は、背の高い男性のほうが異性を魅了する能力が高いことに起因するようにみえる、とネトルは語っている。
 女性たちについていえば、子供がいる比率が高いのは身長が151~158センチメートルの集団で、これは平均身長の162センチよりだいぶ低い。
「背の高い男性と背の低い女性が、進化論的にいえば、近代的な人口集団においても有利であるようだ。それゆえ男女の身長差は、今後もなくなりそうにない」

 邦題が悪い。これだと「セックス中の脳活動を生物学的に考えますよ~」って本だと思ってしまわないか? 私はそう思って読んだクチですが(笑)セックスってのはジェンダーに対するセックスで、原題は“Evolution, Sex and the Brain”。「進化、性、そして脳」って感じかしら。さすがにこのままじゃちっとも興味を惹かないけどね。
 なぜセックスはあるのか? どうしてヒトは賭博にハマるのか? 生命の謎はつきない。『ネイチャー』『サイエンス』が認めた最新生物学のホットな成果。『The Japan Times』連載中のコラムから40本を訳出。(Amazon
 すっごくすっごく興味深くて面白かったので、どうせなら本にするにあたり改稿してほしかったなあ……各コラムの内容を更に深くつっこんで。無理なお願いか。お手軽に生物学の面白さを知ることができ、わくわくしながら読み進めていけるのは、一つのコラムあたり4・5ページという短さがいいのかもしれないけど。6章から成り立っていて、Ⅰセックスは生物学最大の謎、Ⅱ進化はつづくよどこまでも、Ⅲ母と子をめぐる思いがけないドラマ、Ⅳ難病奇病に挑む、Ⅴ脳は最もミステリアスな器官、Ⅵ私たちはどこから来て、どこへ行くのか? となってます。
 何だかんだ言っても、最も惹かれたのはセックスの項。他の動物のセックスのありかたを人間にあてはめて考えると、それだけでお話が書けるくらいユニークです。カタツムリとヨウジウオはときめくなあ! カタツムリ嫌いだったけど今度から見る目が変わりそうです。