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Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』  ★★★★☆

夜と霧 新版
夜と霧 新版
ヴィクトール・E・フランクル, 池田 香代子
 そして、とっくに感情が消滅していたはずのわたしが、それでもなお苦痛だったのは、なんらかの叱責や、覚悟していた棍棒ではんかった。監視兵は、このなんとか人間の姿をとどめているだけの、尾羽打ち枯らし、ぼろをまとったやつ、彼の目に映ったわたしというやつを、わざわざ罵倒する値打ちなどないとふんだ。

 ある夜、隣で眠っていた仲間がなにか恐ろしい悪夢にうなされて、声をあげてうめき、身をよじっているので目を覚ました。(中略)悪夢に苦しんでいる哀れな仲間を起こそうとした。その瞬間、自分がしようとしたことに愕然として、揺り起こそうとさしのべた手を即座にひっこめた。そのとき思い知ったのだ、どんな夢も、最悪の夢でさえ、すんでのところで仲間の目を覚まして引きもどそうとした、収容所でわたしたちを取り巻いているこの現実に較べたらまだましだ、と……。

 人間とは、なにかをつねに決定する存在だ。人間とは、ガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ。

「なあ、ちょっと訊くけど、きょうはうれしかったか?」
 すると、訊かれたほうはばつが悪そうに、というのは、みんなが同じように感じているとは知らないからだが、答える。
「はっきり言って、うれしいというのではなかったんだよね」
 わたしたちは、まさにうれしいとはどういうことか、忘れていた。それは、もう一度学びなおさなければならないなにかになってしまっていた。

 星の数とかで評価をしてはいけないと思うんだけれども、読みやすさなどの点から判断して。第二次世界大戦後世代の私たちこそ読んでおくべき本の一つではないだろうか。私たち人間が犯してきた愚かな行いを改めて悔いたい。強制収容所で筆舌に尽くしがたい苦痛を味わいつつも、学問のために冷静な視点で自らと周囲を見つめた作者に尊敬の念を。
 時折熱を帯びるものの、大方は淡々と収容所内のことについて述べられている。いつのまにか泣いてた。毎日待ち望んでいたであろう自由なのに、突然与えられてもうまく噛み締められないほど、凄まじかったんだなあと。
 収容所の中でも自分を保ち続けた人が少なかったにはしろ存在した。苦痛を乗り越えることによって何かを達成し、生きる意味を認識する。私には、きっと無理だなあ。
 新訳で読んだのだけど、旧訳の方だと資料がたくさん載っているらしいので、そっちも見てみたい。