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佐藤多佳子『一瞬の風になれ 第三部』  ★★★★

一瞬の風になれ 第三部 -ドン-
一瞬の風になれ 第三部 -ドン-
佐藤 多佳子
 人生は、世界は、リレーそのものだな。バトンを渡して、人とつながっていける。一人だけではできない。だけど、自分が走るその時は、まったく一人きりだ。誰も助けてくれない。助けられない。誰も替わってくれない。替われない。この孤独を俺はもっと見つめないといけない。俺は、俺をもっと見つめないといけない。そこは、言葉のない世界なんだ――たぶん。

 SA・WA・YA・KA☆ ザ・爽やか小説と言ってしまっていいと思います。面白かったよ! 三巻はやはり三年間の集大成ということで、色んなところで涙がにじんできました。長いようであっという間の三年間を、陸部の子たちは有効に使って心身を鍛えてきたんだなあ。一瞬の風になって読みきってしまった。欲を言えばもうちょっと書ききってほしかった部分がいくつか。
 新二と連の陸上を通した信頼関係? みたいなものがもう……互いに認め合ってる感がたまらないです。特に新二が、自分も連と走っていけるんだと自覚する場面。うあー。
 高校の最終学年を迎えた新二。入部当時はまったくの素人だったが、今では県有数のベストタイムを持つまでに成長した。才能とセンスに頼り切っていた連も、地道な持久力トレーニングを積むことで、長丁場の大会を闘い抜く体力を手にしている。100m県2位の連、4位の新二。そこに有望な新入生が加わり、部の歴史上最高級の4継(400mリレー)チームができあがった。目指すは、南関東大会の先にある、総体。もちろん、立ちふさがるライバルたちも同じく成長している。県の100m王者・仙波、3位の高梨。彼ら2人が所属するライバル校の4継チームは、まさに県下最強だ。部内における人間関係のもつれ。大切な家族との、気持ちのすれ違い。そうした数々の困難を乗り越え、助け合い、支え合い、ライバルたちと競い合いながら、新二たちは総体予選を勝ち抜いていく――。(Amazon
 100メートルを10秒台で走るって信じられないよ。運動音痴の私は50メートル8秒以上かかるもん(笑)そんな短い時間にあんなたくさんの気持ちや駆け引きが詰まってるなんて知らなかったな。陸上の世界では最も短い距離を、最も速く走るため、ショートスプリンターとしての自分を磨いていくんだね。100メートルの間に全てを出し切れるように、気持ちを高めていくんだね。400とかも走ってるけど、メインはやはり100メートルを4人が走るヨンケイ(リレー)。
 駅伝もそうだけど、他人とバトンや襷を繋ぐために走るって、なんて泣けるんだろう……。みんなで一つになって一番を目指すことって、見てる人を深い感動に引き込むよね。とか言いつつ私が最も好きな二次元のスポーツ選手は飛び込みの富士谷要一ですけど! あの孤高な感じがたまらん!(黙ってください)
 私にはスポーツに打ち込む能力も気力も根性もなかったので、小説でそれを擬似体験できることは幸せだと思う。じゃあ何を頑張るの、と聞かれたら……どうかな、紙媒体には死ぬまで関わっていたいけど、どうかな。
 ちなみに、この小説を読んだ脳内ビジュアルイメージ。連:高尾滋「ゴールデン・デイズ」主人公、桃内:吉田秋生ラヴァーズ・キス」の後輩、鍵山:松本大洋「ピンポン」アクマ、谷口:花沢健吾ボーイズ・オン・ザ・ラン」ちはる、みっちゃん:入江亜季「コダマの谷」ライダー(を垂れ目にした感じ)でした。連と桃内はぴったりだと思うんだけどな……(笑)新二が金髪じゃなかったら、もっとこの本好きだったかも。それが一番のネック。