Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

横山秀夫『陰の季節』  ★★★☆

陰の季節
陰の季節
横山 秀夫

 柘植は絨毯に額を近付けた。頬が火を吹く。こめかみで血流が波打つ。絨毯との数センチの間隙がプライドだった。それすらも捨てた。化繊の臭いにむせそうになった。心がその場から逃げた。蛇の目をした少年と守夫の顔が見えた。底からも逃げた。(鞄)


 二渡さんみたいな人が好きなので、楽しめました(笑)プライドとか意地とか見栄とか、好きなんです。それをかなぐり捨ててもしがみつこうとしてる姿とか。主に男性の。格好良いなあ。ちなみに警察小説で一番好きなのは『第三の時効』だったり。あれは傑作です。
 陰の季節:警務課の二渡警視は、人事パズルの手直しに苦しんでいた。そこに、OBの尾坂部が今期で辞めるはずだった天下り先ポストに居座るとごねている、との情報が入ってくる。後がつまっているので何とか辞めてもらおうと、二渡は直接尾坂部のもとへ赴くが……。
 地の声:監察課に、Q署の曾根生活安全課長がパブのママとできている、というタレコミが入った。曾根は次に昇進できなければ、警視になるチャンスはない。新堂は送り主を探るべくかつての部下に連絡し、自らも動きだした。
 黒い線:警務課の婦警担当係長・七尾友子のもとに、平野瑞穂巡査がまだ出勤してこないとの連絡が。「似顔絵描き」の瑞穂は先日、犯人そっくりの似顔絵が逮捕に大いに貢献したと新聞で騒がれたばっかりだ。
 鞄:警務部秘書課の柘植警部。仕事は、県の本会議における答弁で、警察関連の質問に対する準備をすること。あらかじめ質問の内容を把握しておこうとする柘植に、鵜飼県議が県警に向け爆弾を投げるという情報が。
 警察小説といっても、全て管理畑での出来事。殺人事件を解決する、とかではなく、内部のごたごたが表に出ないように画策する、といった類いの。ミステリ部分もごたごた部分も面白いですねえ。読後は気分のいいものではなく、汚いところばかり見せられたような気がするので、次はもっと格好よさを前面に! 押し出してほしいものです。無理かなー。組織なんて一皮めくればぐずぐずなのかな。
 となると警察の格好よさを見せるには刑事畑を描いた方が効果的、なんでしょうねえ。犯人=悪ではなくとも、立ち向かう姿勢には惹かれるもんねえ。がむしゃらに頑張ってほしいものは自らの保身なんて、確かにあんまり素敵じゃないもんね。それよりは内部を更正していくくらいの気概がなくては……。

 

 だから、女は使えねえ――。
 その台詞が瑞穂を壊した。
 真夜中だって嫌な顔一つせず現場に飛んだ。重い機材を率先して担いだ。道端で用を足す班員たちを横目に、下腹を抑えながら足跡に石膏を流し続けた。愚痴も弱音も一度も吐かなかった。なのに、女だと言われた。女は使えない、と。


 横山さん自体は女をどう思っているのかな。女性記者や婦警などの苦しい立場を書いた短編がいくつかあるけど、気になるのは地の文でいつもファーストネームが使われていること。男性はラストネームなのにね。