Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

藤原正彦『国家の品格』  ★★☆

国家の品格
国家の品格
藤原 正彦
 猛烈な胡散臭さに襲われてしまった。それというのも、私が最近著者と同じく日本万歳な気分に陥っていたのだけど、米原万理『魔女の一ダース』内でこんなことを言っていたからだ。

 本来人間は生命体固有の自己保存本能を持っており、その意味では極めて利己的かつ自己中心的な存在である。基本的には自己、自己の身内、自分の村、自分の民族というふうに自分に関わりが深い順に大切にする。だから、生まれ育った国を愛するというのは、極めてい自然な感情なのだ。したがってそれをわざわざ大声で主張したり、煽ったりするのは、ちょうど性欲を煽るようにいお手軽でいかさまな行為だという意味ではないだろうか。


 一時間もあれば読めるので、一読の価値はあるかも。あると思う。

 

 にわか愛国者としては痛いところを突かれてしまい、ちょっぴり反省したのである。本書がベストセラーになる日本では、国民が愛国心(祖国愛)の名のもとにお手軽に煽られてしまいそうじゃないか。私には、その部分だけでなく全体を通して、彼女の言っていることはもっともだと感じられたため、日本のみでなく世界に目を向けてから日本に戻ってこようと思ったんだけどさ。
 そもそも私が日本万歳というかアジアラブ! という思考になったのは、夏にスペインへ旅行して、ヨーロッパを目の当たりにしてからな気がする。それまでも、特に東アジアは日本と似てて過ごしやすいな~落ち着くな~とは思ってたが。ついでに十歳の頃フィリピンに一年在住したので、東南アジアにも懐かしさや親しみを感じている。小さい頃はヨーロピアンなお姫様に憧れたものだが、この歳になりようやくアジア人に生まれて幸せだなあと自らの国やその周辺をひいきするようになってきたのだ。
 それなら「日本古来の武士道を取り戻せ」「日本万歳」と唱える本書を賞賛してもいいはずなのだが、できない。もちろん賛成する点は数多くあった。私も論理だけではどうにもならない問題はあると思うし、英語を小学生から学ぶ必要はないと考えているし、日本の自然と日本人の自然に対する目は素晴らしいと信じているし、とことん日本ラブである。しかし、あまりにも盲目的に日本はすごいのよ~と説いているためにそれを信じられない。外国人が日本を褒め称えた言葉をいくつも引用しているけど、都合のいいとこばかり持ってきたんじゃないの? と思える。
 それはもしかしたら、自由・平等・民主主義の概念があまりにも私の奥深くに根付いてしまったからかもしれない。だって生まれた時から世界はそうやって回ってたんだもの。世の中が平等だとは思ってないけど、平等であったらいいのにとは思ってる。だから、日本にも素晴らしいものがたくさんあるように、他の国にも違ったところに素晴らしいものがたくさんあると認めた上じゃないと話を進められない。本書を読む限り、日本がナンバーワンと印象をうける。スマップじゃないけどオンリーワンのキレイゴトを信じたいお年頃なもんで(笑)
 小学生の英語ってのは日本語を叩き込んでからの話だと私も考えてます。活字離れってどこまで本当なんでしょうか。私の周りではそんなものが起こっていないのであまり実感できないんだけど(笑)字を芸術に高めたのは中国人だと思います。
 武士道って『燃えよ剣』の土方みたいな生き方かしら? あれを読めば確かに皆土方に傾倒するかも。大した知識がなくとも、筋を通し続ける。自分の信じた道を行く。それが非合理的で、未来が暗澹としていても構わない。そりゃー土方に惚れますとも! あんな生き方を美しいと思いますとも!(話が大幅にそれましたが)武士が貧乏でも尊敬されてた、ってのは『風流冷飯伝』を思い出してしまった。
 人間が美しさを求めるのは正しいけど、その美しさをどこに見出すかは人それぞれなんだから、あの国には美しい場所がないとか美徳がないとか言い切ってしまうのもどうかと……思いませんでしょうか。誇りと祖国愛を持つのは正しいけど、それゆえに他の国を下位におくのは美しくないと思いませんでしょうか。こう……武士道って、相手を尊ぶイメージが……。
 そんなわけで支持する点も不支持な点もあった。でも、著者は明らかに私より経験も知識も積んでいて、今この時点の私がいくらもっともらしいことを言っても絶対にかなわないんだよな。私がもっと多くを積んだ上で彼のような結論に至らないとは言えないわけで。ううむうまく言えないな。遥かに無知な私には反論する権利もないんじゃないか、と。
 日本は文学において群を抜いて優れている、というのは本当なのかな? 私はそれを判断できるほど日本と世界を知らない。そうだったら嬉しいけどね。あ、日本の誇るべき文化に漫画も付け加えるべき。これは譲れないわ。