Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

津原泰水『妖都』  ★★☆

妖都
妖都
津原 泰水

 空空しいほど無邪気な口調でいい、彼は右手を自身の左胸にあてがった。
 ゆっくりと愛撫するように、それを腹部へとすべらせる。
 指先から目が離せない。繁貞は動揺を感じた。
 少年の骨ばった指は躯のわりにどれも長く、男性的というほどではないが、歳相応の意志や厳しさを感じさせる。


 エロー!(そこ?)
 死者”が東京に増殖し、街に自殺者が溢れ始めたのは、CRISISのヴォーカリスト、チェシャが自殺してからのこと。両性具有と噂された美しく妖しい彼が遺した歌「妖都」は、ヒットチャートを上昇中。“死者”が見える少女たちを取り巻く恐怖と加速する謎。明らかになる巨大な真実。世界をも震撼させる怪奇幻想小説の傑作。(ビーケーワン
 私はこの作品にエロスを求めていたのでその点においてはかなり満足できた。アンドロギュノス、同性愛、近親相姦と各種取り揃えておりますみたいな。普通に男女がセックスしちゃうと健康的すぎてあまり官能に浸れないから、焦らしたり、直接の性交渉はなかったり、ちょっと異常な関係が好き。もちろんフィクションの上でだが。
 裏表紙では綾辻・小野夫婦など(他二人は未読)著名な作家が大絶賛している。帯とかじゃなくて! そんなに褒め称えたかったのか。「純粋なホラー小説」だなんて知らずに借りたよ。そんな本を真夜中に読み返して恐くなったりしているわけです。
 確かに感性や眼差しにはうっとりしたけれど、やはり最後がなあ。私はきっちりとやってほしい人なので、消化不良の感が……。これでいい、って人もいるんだろうが、私はこれをうまく盛り上げておとしてくれたらもっといいと思う。
 エログロホラーの三点が揃っていて何かお徳感はある(笑)
 津原さんはこの作品が初ホラーだったのね。以前は少女小説家として30作あまりを世に送り出してきたとか。読んでみてえ。三冊読んで、今のとこ一番好きなのは『綺譚集』かな。あの中の「赤假面傳」みたいなのを読みたかったんだ、私は。

 

 両性具有のチェシャは自らを自らで孕ませたわけだけど、これは果たしてセックスになるのか自慰になるのかということを考えていました。多分、追うべきはそこじゃないと思う。
 雛子が馨のことを「天敵」だと思ったのはどうしてなんでしょう。この世界は千年の楽園に突入しちゃったのかな。うう、よくわからない。

「おれもいた。考えてみたら阿南、おれもいるよ」


 悟がかっこよすぎて胸キュンでした。この優しさと気づかい、いい男だなあ。