Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

横山秀夫『震度0』  ★★☆

震度0
震度0
横山 秀夫

 誰も何も言わなかった。
 音を消したテレビ画面に神戸の惨状が映し出されていた。
 震度0――。
 N県警の本部長室はそうだった。


 うわーどろどろしてた。県警での権力争いの図でした。確かに馬鹿みたいだ。キャリア・ノンキャリアに加えて板ばさみ的な準キャリアまであるのかと、その手の話が好きな私にはおいしかったものの、そうではない人にとってはイマイチではなかろうか。
 阪神大震災のさなか、700㎞離れたN県警本部の警務課長の不破義人が失踪した。県警の事情に精通し、人望も厚い不破がなぜ姿を消したのか? 本部長の椎野勝巳をはじめ、椎野と敵対するキャリア組の冬木警務部長、準キャリアの堀川警備部長、叩き上げの藤巻刑事部長など、県警幹部の利害と思惑が錯綜する。ホステス殺し、交通違反のもみ消し、四年前の選挙違反事件なども絡まり、解決の糸口がなかなか掴めない……。(Amazon
 キャリアにときめくので(「キャリア」だからではなく、その置かれている微妙な状況に)冬木警務部長を応援していたのだが、一筋縄にはいかないというか。結局最後までエールを送っていましたけどね。汚くあろうとどうしても長官になるという心意気に。でもかっこよくはなかったわ。椎名本部長も、藤巻刑事部長も。倉本と間宮は言うまでもなく。唯一堀川警備部長はキャリアとノンキャリア両方に睨まれながら、それでもフェアさを保っていたところが好印象でした。でも、最後はねえ……。
 阪神淡路大震災を使ったのは『震度0』というタイトルをつけたいがためなのかな、と思ってしまうくらい不必要だと思うんですけどどうでしょう。あんな大きな災害が起こっているのをそっちのけにして、N県警幹部はそろって私利私欲に走った行動を取っている、ってのは皮肉が効いているけれど。彼らだけを見ていても面白いから、切り離しちゃっていいと思うなあ。
 キャリアとノンキャリの対立と攻防、妻達が官舎で繰り広げる醜い争い、指揮権をわが手にと心理戦を繰り広げる部長ら、徐々に明らかになっていく不破の過去……と、充分わくわくしましたよ。全体的に醜いんだが。色んな人の視点に切り替わるから、同じ人に対しての見方が変わってくる。あれ、こんな人だったのかーって。
 人が組織にくみしている以上は円滑に仕事が進むなんてありえないのかな?

 

 一番の役者は静江だったってことね。何かを隠している、と皆ににらまれていたけど、まさか自らの手で不破を殺害したなんて……そこまで考えている奴はいなかったのでは。その図を想像すると末恐ろしいですね。
 不破が昔付き合っていた麻生史子は、妊娠して退職した。生まれたのが今はソバージュ頭のひとみ。しかし、ひとみは不破の子供ではなく、恐らく倉本の……。そんなひとみを女として愛してしまった不破さんは、道を踏み外さなければN県警を支えてくれたんだろうに。
 藤巻は真実をつまびらかにするのかな。冬木派としては彼に悪魔に堕ちていただきたいのだけれど(笑)堀川さんは最後に酷な救いの手を差し伸べましたね。