Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

三浦しをん他『最後の恋』  ★★★

最後の恋
最後の恋
阿川 佐和子, 角田 光代
 このひとでいい。
 このひとが、いい。(LAST LOVE)

 信じられるものを、ぼくは創り出したかったんだろう。それは恋愛感情というあいまいなものでも、結婚という形式でもなくて、もっとささやかでちいさいもの。(おかえりなさい)

 八人の女性作家によるアンソロジー。三浦しをんが書いていたのでおお! と借りたんだけど、予想以上に好みだった。ラッキー。母親も同意見。本でも漫画でも純粋な恋愛ものにはさほど興味がわかないのよね。だから期待してなかったんだけど。
 春太の毎日(三浦しをん):春太は、自分を拾ってくれた麻子ひとすじだ。毎日一緒にすごして態度で愛を示している。なのに、麻子はほかの男をつれてきて平気で春太の前でいちゃつくのだ。
 ヒトリシズカ谷村志穂):カメラを持って年中山に行ってしまう瑠木が、春には戻ってくる。瑞江は毎春、二人で過ごせるその季節が待ち遠しい。
 渡辺食堂の姉妹(阿川佐和子):渡辺家は海沿いの町のはずれで食堂をやっている。給仕をつとめる姉は明るく社交的なのに対し、妹は人見知りをして滅多にキッチンから出てこない。
 スケジュール(沢村凛):妙は、ごくごく平凡な女性だ。けれど、一つだけ特技を持っている。スケジュールを立ててそれを守ることができるのだ。
 LAST LOVE(柴田よしき):仕事をしつつ恋愛していた真由美。五年も付き合ってきた相手・剛志と、次の段階に進もうと結婚を話題に出した。すると剛志は他に好きな女性がいるとのメールを送ってきた。その女性を、最後の恋にすると。
 わたしは鏡(松尾由美):文芸部の編集長である比呂は、ロッカーで見知らぬ原稿を見つけた。美容室の、後ろ側の仕上がりを客に見せるための鏡が主人公だ。比呂がサークル員に尋ねても、皆心当たりがないという。
 キープ(乃南アサ):恋愛でくたくたになり、もう二度と誰かを好きになりはしない、人を好きになるのはこれが最初で最後だと誓った十五の頃。それ以来私は一度も人を好きにならずに生きてきた。
 おかえりなさい(角田光代):宗教のパンフレットを配り歩くバイトを持ちかけられ、高報酬に僕は一つ返事で引き受けた。とある家で老婆に「お帰りなさい」と家に招き入れられ……。
 わかりやすくやられたのは柴田よしき。『聖なる黒夜』読もうと思ったらそれにリンクするシリーズがあるのを知って、放置していた柴田よしき。著作すっごく多いよね。私も結婚するときは、そう思って結婚したい。
 春太の毎日、どうせやるならとことん隠し通してほしかったかも。ミステリ的考え方だ。三浦しをんは小出しにしたかったんだろうね。微笑ましくてよかったけど、まあ普通かな。阿川佐和子の小説初めて読んだ。現実離れした雰囲気のくせに、銀行員が出てきたりとおもしろい。他人を不憫に思えるのは、自分が勝っているからなんだろう。近頃ニュースで性同一性障害の男の子をよく流しているから、「わたしは鏡」を読むと切ない気持ちになる。現代では性転換が可能になったけど、昔はおしとどめるしかなかったのかな。もしかして現代病? 無知で恥ずかしい。
 残りもそれぞれよかったです。でもやっぱ、LAST LOVEがよかったです(笑)