Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

姫野カオルコ『受難』  ★★★

受難
受難
姫野 カオルコ

「かなしむと怒るじゃない。かなしむということは、“自分の現状が自分にはふさわしくなくて、自分はもっと男に愛されるべき女なのだ、それなのになぜ愛されないのか”という心理の表れだから傲慢だ、って」


 面白い面白くない以前の問題。たまげたよ。すごいよ姫野カオルコ。尊敬してやまないよ。星の数で表すのはかなり難しいので無視していただいて結構です。
 ある日、あなたの肉体に人面瘡ができたら、あなたはどうしますか? フランチェス子の場合は…彼女は人面瘡を「古賀さん」と名づけて共同生活をはじめ、「ダメ女!」と日夜罵られていましたが、ひょんな事から思いついた新ビジネスで運命はさらに急転回……極北の笑いを奔放な筆致で描く新しい純文学。(Amazon
 人面瘡ができたの、恥部だからね(Amazonはまんま書いてるよ)恥部に「古賀さん」と呼びかける処女のフランチェス子。……こんな発想はどうやって生まれたのだろうか。あっけらかんとしていれば、話しているのはいやらしいことなのにいやらしさの欠片もなくなってしまうものだ。むしろ笑える。下の話って何でこんなにおかしいんだろう。
 静かに自分の運命を受け入れ、他人の役に立つフランチェス子のいじらしさと言ったら。自分に近づく男性があんな風になったら、そうなっちゃうのかもしれないけど。
 ラストもすごい。まさかこんな展開が待ち受けていたとは、夢にも思わなかった。今までの流れは一体何だったのか、いや確かに繋がってはいるのだが……とりあえずよかったね! と祝福しておきました。めでたしめでたし。 

 

 セックスしない、んじゃない。セックスできないのだ。オナニーしない、んじゃない。オナニーすらできない。それほどフランチェス子は男から欲されることなき無価値な女なのだ。

「恋人ができる男というのは会話がないんだ。恋人ができる女というのも会話がないんだ。会話なんかできたら“つきあう”対象として見てはもらえない。パーソナリティを持ったら女はダメ女になる。男もおんなじさ、パーソナリティなんかあるやつは、いい人ね、だ」
 (中略)
 相手の人格の深い部分にまで入り込もうとしないこと、入り込まれるほどの人格を所有しないこと、これが「つきあう」だと、古賀さんは眠そうに諭した。

「ちょっとこわいよねー」「なんか重いよね」。よく現代人はこの言い方をするが、現代用語を古語に訳せば「この人、きらい。興味ない」である。「異性としてはきらい、異性としては興味ない」のほうがより的確か。

「男はミロのヴィーナスのことを想像しながらオナニーはせんから。そういうやつはダメ女だ」

「セックスを“あかし”や“手段”や“武器”にすることが、セクハラだと思うわ」


 名言集もどき(笑)
 古賀さんがリヒテンシュタインの王子様だったなんて! キスで目覚めるのはいいとしても、その場所が自分の股間ってのは絵的に美しくないなあ。いそぎんちゃくとカズノコを膣内に飼っているフランチェス子に、幸あれ。