Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

辻村深月『凍りのくじら』  ★★★☆

凍りのくじら
凍りのくじら
辻村 深月

 私の考える頭の良さというものは、多分その人の今までの読書量と比例する。頭の良さは様々だし、勿論この側面からだけで簡単に測れるものではないが、それでも私の場合はそこが大事。

 例えば、今もし母が死んでしまったら私は後悔するだろうと。(中略)そしてそれがわかっていても、今現在の母に自分が優しくできないこと、それも知っている。人間と言うのは理不尽で業が深く、そして間が悪い生き物だ。


 すごく共感。本を読めば頭がよくなるわけじゃないけど、偏差値が上の学校に行くほど本読み率が増える。多読しているのにとてつもなく頭が悪い、って人にも巡り会ったことがない(私の世間が狭いのもあるが)後者はダイエットにも通じるところがあるのではないか(色々貶めたなお前)
 藤子・F・不二雄をこよなく愛する、有名カメラマンの父・芦沢光が失踪してから五年。残された病気の母と二人、毀れそうな家族をたったひとりで支えてきた高校生・理帆子の前に、思い掛けず現れた一人の青年・別所あきら。彼の優しさが孤独だった理帆子の心を少しずつ癒していくが、昔の恋人の存在によって事態は思わぬ方向へ進んでしまう……。家族と大切な人との繋がりを鋭い感性で描く“少し不思議”な物語。 (Amazon
 私がこのところ悶々と考えていたことが書かれていて、うがー! と思った。邪魔しないでよ! 余計なお世話よ! みたいな。時と金のどちらを取るか選べるのは、どちらか(多くの場合は金)を持っている人だけなのよ。大抵は両方持っていないから、どちらかを得ようとしてもう一方を犠牲にせざるをえないんだってば。人を馬鹿にしてしまう、というのも理帆子ほどでないが私もそうであり、その傲慢さに嫌悪しつつ、馬鹿にするというのはめでるはじまりなのかしら云々……(うわっイタいけど若気の至りということで)。でもさ、理帆子や若尾だけじゃなくて、他の人だって、少なからず他人を馬鹿にして生きてるんじゃないか。こいつは自分より下だ、と思わないとやっていけないことってあるでしょう。
 そんなこんなで、絶対作者は理帆子的だ、気に食わない、と勝手に妄想しながらも、きっちりと泣かされてしまったのでした。プラチナ本、でしたよ。 

 

 私はきちんとその場に存在してそこで生きてる人たちが怖い。気後れしている。だからそこに行けないし執着できない。けれど若尾だけが、この男だけが違った。常に理想主義を生きるコイツは、私と同様にこの世界に不在だ。だから馬鹿にできた。私に劣る者だと、彼にだけは執着できた。カワイソがるのは、自分より低い位置に立つ者に対する慈愛の感情。私の恋の盛り上がりは、全てそこに起因する。


 ここまで書かれると天晴れだ。
 お母さんが構成を担当した写真集の言葉は、はらはらと涙を誘いました。家族愛にはどうも弱いなあ。うう。
 若尾の決着のつけかたは……どこまでも逃げに走るのか。記憶喪失ってそんな! 自分も省みよう。理想主義だから。
 芦沢光=別所あきら、ってのは薄々感づいてた。A.Ashizawaってとこで確信に変わる。“少し不思議”な物語って書いてあるしな(笑)そこで不思議を出さずにどこで出す。