Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

北野勇作『かめくん』  ★★

かめくん
かめくん
北野 勇作
 なぜなら、この世界は、甲羅の内側と外側で出来ているのだから。甲羅が動くということは、その内側と外側、つまり世界すべてが動くということだ。
 カメは甲羅といっしょに世界を動かすことが出来る。
 それゆえに、カメは神を必要としていないのではないか。

 SFが読みたい! か何かで一位だった気がする。もっと幅広く読書をしたいなあ、SFってどんなんだろうと手に取った。『世界の中心で愛を叫ぶけもの』や『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』あたりを読めばいいのだが、翻訳ものに尻込みしてしまう私。ついでに新しい本が好きなため、このミスやその手のガイドブックに頼るのである。『マルドゥック・スクランブル』『イリヤの空、UFOの夏』もそうだった。……ん、ラノベ関係からだったか?
 かめくんは、自分がほんもののカメではないことを知っている。ほんものではないが、ほんもののカメに姿が似ているから、ヒトはかめくんたちのような存在をカメと呼んでいるだけなのだ。だから、カメではなく、レプリカメと呼ばれたりもする。――「木星戦争」に投入するために開発されたカメ型ヒューマノイド・レプリカメ。「どこにも所属してない」かめくんは、新しい仕事を見つけ、クラゲ荘に住むことになった。(裏表紙)
 SFを読まない私が言うことだが、宇宙に進出した人類がエイリアンと戦うだとか、ロボットが云々だとか、ものすごい壮大なイメージがある。本書も主人公はロボットだし木星戦争なるものが行われているようだ。しかし、かめくんの日常を追う、のんびりとした物語だった。かめくんは敷金礼金を払ってアパートに住むし、無職のままじゃ食べていけないので仕事もする。図書館に通ったり、猫の肉球を触ったりする。女性に不思議な気持ちを抱いたりもするのだ。
 そんなのんびりした生活の中に、不穏な気配が見え隠れする。ロボットにとって記憶や自意識とは一体何だろう。機械扱いされて、それでも構わないかめくん。どことなく、乾いた淋しさが漂っている。
 改行が多いわりにはだらだらとした文章で、ラノベのような言葉遣い(?)もする。大きな事件が起きないこともあり、一気に読めるようなリーダビリティはないかな。余韻の淋しさは、好きなんだけど。