Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

東野圭吾『容疑者Xの献身』  ★★★★☆

容疑者Xの献身
容疑者Xの献身
東野 圭吾

「人に解けない問題を作るのと、その問題を解くのとでは、どちらが難しいか。ただし、解答は必ず存在する。どうだ、面白いと思わないか」
「興味深い問題だ」石神は湯川の顔を見つめた。「考えておこう」


 このミス・本ミス・週刊文春の全てで一位をかっさらい、念願の直木賞をも受賞した本書。白夜行のドラマ化とあいまって、あらゆる書店で東野さん特集が組まれていますね。70近い図書館の予約件数にも関わらず予想以上に早く届いたので、世界の中心~みたいなことになってるんだろうな。一つの図書館に何冊もあるっていう。
 ガリレオシリーズはなぜか『予知夢』が既読。しかしちゃんとした記録を残していないから覚えていない。話のタイトルが印象的だったのは覚えてるんだけど……。学者湯川と刑事草薙のコンビが事件解決していく、っていう典型的なやつだよね。
 東野さんて、こんなに淡々とした文章を書く人だったんだ。私は三冊くらいしか読んだことないから他がどうなのか知らないけど、『ゲームの名は殺人』はもっとテンポよかった気がするなあ。やはり石神効果か。
 花岡靖子は、弁当屋で働きながら一人娘・美里と暮らしていた。ある日、ホステスをしていた頃に結婚し、別れた夫・富樫が『べんてん亭』を訪れる。自宅にまで押しかけてきて復縁を迫る富樫だが、美里が背後から彼を殴り、靖子が炬燵のコードで首を絞め、殺してしまった。呆然とする母娘にかかってきた電話。それは隣家の数学教師・石神からのものだった。石神は二人に事件隠蔽を協力する、と申し出る。
 このミスの「何でも純愛と宣伝するのはどうなのか」という論議で「本人が最高のトリックと言っているのに純愛で売るのは云々」と言っていた。けれど、純愛で売りたくなる気持ちもよくわかる。本当に、こんな愛がこの世に存在するなんて(フィクションだけど)と思ってしまう。でもね。これは本格ミステリですね。素晴らしいよ。
 んん? ちょっと事態が不穏な方向に、と思っていたら全てが愛のためだったとは。感服です。愛のためなら人はどこまでできるのか、「セカイ系」の話を読んでも考え込んでしまうね。純愛とは――。
 まああらすじ読めばどのような展開が待っているかは分かるけど、湯川がいなければ、と考えてしまう。どっちがよかったのか、判断できる人はいないんだろうけどさ。

 

 愛する人のために、理由なき殺人を犯す。彼女を守るため、っていう大義名分があるから理由はあるのかなあ。9日に起こった富樫殺害を、10日にホームレスを殺害しそれを富樫の死体として示す。そりゃあどんなに追求したって証拠は出てこないよね。その人を殺していないんだもの。
 ストーカーと化し手紙を送りつける姿も、自らをストーカーと貶め靖子に罪を被せないための布石。そして最後の靖子宛の手紙。……おいおい!! 純! 泣きそうになってしまった。
 死体が草薙の縄張りを越えていたら、その事件を湯川が知らなければ、石神が逮捕されることもなく終わっていたんだろうな。でも、そうやって得た幸せは、人一人を殺した重荷がどれだけのものか知らないけど、美里が自殺未遂を計ったようにいつかは崩壊する幸せなのかもしれない。 
 石神にとっては自分の全てを賭けて守りたかった相手だから、やっぱり塀の中には入ってきてほしくなかったんだろうが……。

「一人の友達として、僕の話を聞けるか。刑事であることは捨てられるか」
「……どういうことだ」
「君に話しておきたいことがある。ただし、友達に話すのであって、刑事に話すのではない。だから僕から聞いたことは、絶対に誰にもしゃべらないでもらいたい」
(中略)
 それを口にすれば、今後この男から友人と認めてもらえないと思った。

「もしいつまで経っても花岡靖子が自首してこないのなら、俺は捜査を始めるしかない。たとえおまえとの友人関係を壊してでも」


 この辺には言葉に表しにくい何か強いものを感じました。大事な友人を一人失ってでも、刑事として捜査をするという草薙。刑事として生きているのですね。