野中柊『あなたのそばで』 ★★★
あなたのそばで
野中 柊
ただただ、私はこわかったのだ。無償といってもいいほどの愛情を注がれ与えられ続けることは、ときとして、愛して尽くして奪われて身も心もぼろぼろにされることよりも、よほど残酷なことではないかしら? と。(オニオングラタンスープ)
「あなたとは結婚しなければよかったわ」と言った。
「そばにいると、ときどき、とても苦しいの」とも言った。
「いっそのこと、別れてしまって、離れたところから、あなたのことを思い続けていたいって考えることさえあるわ」(運命のひと)
中身も外見もほんわかしたピンク色の本。ここまでかわいらしい恋愛ってそうそうないだろ、と思いつつピンク色に染まってしまいました。ふわふわと幸せに浮かれるための短篇集なのでしょう。
オニオングラタンスープ:菜名は16歳の時、コピーライターの春生と結婚した。今日は二人の一年目の結婚記念日だ。
光:生徒会長の僕の恋人は、高校で生物を教えている新藤雪絵先生。誰にも言えない秘密が沢山ある。
イノセンス:瞳子には、瑛子という不思議な能力を持った妹がいた。瑛子は15歳で死んでしまい、31歳になる瞳子は、一人でバーを経営していた。
方恋:僕・緒方勇輔は、沙織という恋人がいながら、兄の妻・衿子が気になってしかたない。どうして衿子は僕にキスをしたんだろう?
運命のひと:恭子と俊は、結婚して九年。共同のオフィスをやっていて、大学生の椿ちゃんがアルバイトにきてくれている。恭子には、恋人がいる。
さくら咲く:僕・聡は、大好きな美也ちゃんを行きつけのレストランに招いた。僕は小児科医である明信さんと男二人の暮らしをしており、彼と看護婦・千鳥ちゃんの恋の行方を見守っている。
一見バラバラの短篇集かと思いきや……? 最後にはにこりと微笑みたくなること請け合い(にやり、ではなく)。甘~い。何てったって『あなたのそばで』ですからね。羨ましい。
そう言ったときには泣きそうだった。
「でも、別れない、ぜったいに」
おおお~!