Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

津原泰水『赤い竪琴』  ★★★☆

赤い竪琴
赤い竪琴
津原 泰水

 俘囚のように、私はいわれるがまま動いた。夜の硝子に映った私と竪琴は、記憶のなかの残像のように、輪郭ばかり鮮やかだった。暗い鏡面は私の指と絃の衝突と別離を、ソラシドレミファソラシドレミを、二倍に拡げ、響かせた。脚がふるえた。


 いたるところでお薦めされていたので、手にとってみました。『綺譚集』はこのミスに入ってたから、結構前に読んだ。幻想と怪奇の美しさにしびれた覚えが。私が一番好きだったのは「赤仮面伝」だったのもあり、これは女性だろうと決め付けていたら何と男性。三浦しをんも薦めていたというのに。あまりのショックにここでも記事を立ててしまったほどでした(もう消した)。
 三十歳を過ぎ、仕事への希望も見出せぬまま、東京で一人虚無的な日々を過ごすデザイナーの暁子は、祖母の遺品をきっかけに耿介という男と知り合う。命ある限りの残酷な愛の記録。真実の愛を知った大人の哀愁漂うラブストーリー。(Amazon
 『ペニス』『少年トレチア』あたりはタイトルが印象的(笑)なこともあり読もうかなーどうしようかなーと結局読んでいなかった。本書はタイトルは覚えてなかったけれど赤いカバーが気になっていた。素敵な装丁ですよね。漢字の使い方や言葉の選び方が古風。
 恋愛小説とは知っていたけれど、このミスから入ったこともあり、ホラーテイストなのかとばかり……ふたを開けてびっくり、純粋な大人の恋愛小説だった。文章も雰囲気も、美しさは健在で酔ってしまった。それでいてストーリーも先が気になる感じ。見届けたい! と。甘い嘆息。
 彼らをじれったく見ていたわけだが、二人が出した結論は哀しく切ない。そこらへんは経験をつんできた大人ならではなのかしら。私も年を重ねればわかるようになるのかしら。どちらかといえば、はっぱをかけた彼女(名前を忘れた)(本が手元に無い)側なのだけれど。
 最近恋愛小説を読むと、色恋について考えます。十年先の自分に思いを馳せたり。どうなっているんだろう。津原さんはグロいとも聞くけれど、いつも図書館にあるので(笑)制覇しようっと。

 

 私は本気ではなかった。


「また苦しみが増しましたね」
 と、唇を離して久しぶりに話しかけた。
「苦しみながら、それぞれに進もう」


 本気ではなかった、と自覚してしまうなんて~。ラブストーリーにあるまじきものだよね。

「まだ見えるほど近くじゃない。新しい療法を試すよう説得された。長期戦になる。近くで見物したいという物好きがいるんじゃないかと、掛けてみた」
「見たい。見せて」


 その分この回りくどい愛情のやりとりが素晴らしいんですが!