Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

石持浅海『セリヌンティウスの舟』   ★★☆

セリヌンティウスの舟
セリヌンティウスの舟
石持 浅海
セリヌンティウスが信じたのは、メロスが帰ってくることじゃない。メロスの絶対に帰ってくるという意志を信じたんだ。同じように僕たちはみっちゃんを信じている。彼女の意志を信じている。だから結果を受けとめるだけでは彼女の意志を尊重することにならない」

 まず本を開いて思ったこと。字、でかっ!
 石持浅海は『扉は閉ざされたまま』『月の扉』『BG、あるいは死せるカイニス』を読んできたわけだが、私はBGが一番好きかな……って本書には関係ないけど。彼の著作の登場人物は、普通のミステリならあまり気にしないところに突っ込みを入れて納得いくまでこねくりまわす。本格ミステリのような決まった名探偵役がいないので、全員でアイディアを出しあうからかもしれない。
 荒れ狂う海で、六人のダイバーはお互いの身体をつかんで、ひとつの輪になった。米村美月、吉川清美、大橋麻子、三好保雄、磯崎義春、そして僕、児島克之。石垣島へのダイビングツアー。その大時化の海で遭難した六人は、信頼で結ばれた、かけがえのない仲間になった――。そんな僕らを突然襲った、米村美月の自殺。彼女はダイビングの後の打ち上げの夜に、青酸カリを飲んだ。その死の意味をもう一度見つめ直すために、再び集まった五人の仲間は、一枚の写真に不審を覚える。青酸カリの入っていた褐色の小瓶のキャップは、なぜ閉められていたのか? 彼女の自殺に、協力者はいなかったのか? メロスの友、セリヌンティウスは「疑心」の荒海に投げ出された!(Amazon
 今言うのも何だけど、もし『扉は~』に探偵がいたら、ブチ破ると思うんだ。御手洗やメルあたりは戸惑うこともなく助手に道具を持ってこさせそうだし、榎さんは開く前に全てを理解するとしても木場修が体当たりしそうだし、火村助教授だって静かに破ることを決意するでしょう。石動は……躊躇するかも(笑)でも、あそこにいた人たちは破らない。それは彼らにとって殺人が非日常で、穏便にすませておきたいから。一般人なんだよね。
 この本では、六人が恐ろしい程の絆で結ばれているから、すごく細かいこと(だと私は思ってしまった)がどこまでも掘り下げて討論される。もしも彼らがただの友人だったらそうはならないんだろうが、それにしても緻密(読めば誰でも思い至る他の可能性を歯牙にもかけないところは、どうかと思うけど)。これも探偵だったら、そこまで気にならないかもね。自分の知り合い、もしくは知り合いでもない人の事件を解決するんだから。私も特別仲のいい友達がそうなったら、深く考えるかもしれない。自殺の場面に立ち会ってしまったのならなおさら。それよりも逃避しそうだけど。
 またも賛否両論あるだろう結末。私は賛! おどろおどろしくていいじゃん(笑)残された人たちがこれからどうなっていくのか……泥の舟! 気づけよ溶けてるって!(意地の悪い自分)
 楽しめるかどうかは、前提を受け入れられるか否かにかかっている。年甲斐もないあだ名にいちいち違和感を覚えないかどうかにも(ごめんなさいごめんなさい)。私は、実際有り得ないだろうと冷たい目を向けつつもそこは流して、言葉遊びのような推理を楽しめました。よくぞそこまで考えるな! と。
 しかし、私が友人の不審な死を目の当たりにしたら、疑心暗鬼と敵対心にかられることであろう(笑)だって私はそんな気高さ持ち合わせてないんだもん。もしくは犯人を外に求め、やりすごすであろう。あのような絶対的信頼を抱ける相手は、いない……orz
 ついでにメロスの話は、寄り道しなければよかったんじゃね? と、セリヌンティウスは面倒に巻き込まれたなあと、王様はいっそ気に食わないという理由で二人を処刑するのも一つの手よと、見も蓋もないことを思って読みました。中学の教科書で。