古川日出男『gift』 ★★★★
gift
古川 日出男
想像力だけで私は自滅する。だから決めた。あたしは餓死しよう。(あたしはあたしの映像のなかにいる)
出し抜け!
叫んだ。世界を出し抜け!(鳥男の恐怖)
よかった!! 『ベルカ、吠えないのか?』から日出男入門、『アビシニアン』『ボディ・アンド・ソウル』を途中で返し、私って日出男合わないのかも……と思っていたけれど短かいのならいけるのでは、と読んだらよかった! いけた(笑)! ここぞという一文がめちゃくちゃかっこいい!
19の掌編が入っているので好き嫌いはあるのだが、好きな話がすごく好きなので(変な日本語)評価は高くした。ちなみに私が好きだったのは、「ラブ1からラブ3」「静かな歌」「夏が、空に、泳いで」「鳥男の恐怖」「アルパカ計画」。「オトヤ君」は哀しかったー。
他人の感想を読んでいると、古川日出男の作品には三つくらいパターンがあるようで、恐らく私が触れた三作はその三つなのだろう。三人称、一人称、日出男の一人称。これから読んでいけば分かるかな。
一つ一つコメントを。
ラブ1からラブ3:妖精の足跡を捕まえるために、ベランダに砂山をつくる。「しゅるしゅる」という擬音語がかわいい。のっけから心を掴まれた。
あたしはあたしの映像のなかにいる:体重が八十キロを越え、家を出たあたし。フィルムは見つかるのだろうか?
静かな歌:奄美大島から綴る。元気ですか? 手紙ネタでまず思い浮かぶのは本多孝好の「瑠璃」だけど、これも好きだ。
オトヤ君:「無限のように永いんです」という切なる言葉と真っ直ぐな絶望。合掌。
夏が、空に、泳いで:屋上でソフトクリームを食べようとしたら、そこには同級生のシノダが。最後の一文でノックアウト。すてきなのはお前だ!
台場国、建つ:東京湾の水位が一気にあがり、観覧車のゴンドラに取り残された人たち。そこで誕生する国家。
低い世界:12と13ではっきり区切られる世界。何かキノの過去みたいだね。
ショッパーズあるいはホッパーズあるいはきみのレプリカ:アメリカなどではよくあるのかもしれないが、日本じゃないよね。コンビニ強盗の話。一つの段落でなっている。
ちいさな光の場所:フルカワさんと彼の妻とカナリヤ。
鳥男の恐怖:中学校同士の歴史ある権力闘争。「とり」と入力すると「殺り」と変換する私のパソコンも恐怖である。
光の速度で祈っている:猫、踏んじゃってな、みたいな軽さを持って告げられるべきではないだろうが。何が幸せなのかわからないね。
アルパカ計画:アルパカ計画について書いていたら、母娘が玄関の呼び鈴を鳴らした。あなたの子です、と。彼が出した投げやりで楽しい答えは好きだったのに。
雨:私もガールかな? 目覚められるかしら?
アンケート:無人島に持って行きたいものを三つ。私は実際問題ご飯どうするの、って考えてしまうんだけど。
ベイビー・バスト、ベイビー・ブーム 悪いシュミレーション:現実に、小子化を食い止めることをしなくてもいいんじゃないかと思う。世界規模で環境を考えれば、の話。でも日本だけ見たらそれは困るのかな。
天使編:「だったら、あたしが見つけるわ」かっこいい。
さよなら神さま:車のトランクに、人がぽつぽつと入り込み出てこない。こういう終わらせ方は好きだ。
ぼくは音楽を聞きながら死ぬ:私は本を読みながら死のうか。
生春巻占い:猫の夢を見るようになった。それはいつも、生春巻きを食べた後だ。「猫の恩返し」みたいだな(おい)
おれはこの運命を受け入れて、おまえに手紙を出す。
この空港で投函する。
おれは、おまえとやり直したい、って書いてみる。(静かな歌)
愛が誕生するなんてすてきだった。(夏が、空に、泳いで)
あ、飛んだ。(鳥男の恐怖)
気の抜けた感がすてきだ。