Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

有川浩『海の底』  ★★★★☆

海の底
海の底
有川 浩

「どこまでその芸風で行かれるか楽しみですな」
 茶化すと烏丸が鼻で笑った。
「警部に言われる筋合いはないな。そちらも芸風は同じだろうが、未だに」
「は?」
「バカの指図は受けんと突っ走ってその年だろう。俺もそこまでは行くさ」

 死ぬ権利がない。勝手に死ぬことを認めない。それほどの義務を課して生かされたのだと夏木に突きつけられる。


 いやー……久々に読む手がとまらない、という現象に出会いました(笑)これは面白い! 大したページターナーだな。23時ごろ読み始め、2時に読み終わるまで寝れませんでした。ああ、面白かった。
 米軍横須賀基地で催された、春の桜祭り。そこに、突然巨大ザリガニ『レガリス』が押し寄せ、人を襲っては食べ始める。潜水艦『せとしお』に避難した自衛隊員の夏木と冬原、他13人の子供たち。警察の現地対策本部で奮闘する明石と烏丸、現場でレガリスと戦う機動隊。ことを自衛隊に委託するべきなのは目に見えているが、日本という国ではそれも容易ではなく。彼らの運命は――。
 人類の敵は巨大甲殻類、というトンデモ設定です。これが冒頭からいきなり襲ってくる。最初はあまりの異常事態に笑ってしまった私ですが、いつのまにか物語りに入り込んでいました。
 何てったって、私のツボを押さえる要素が入りすぎ。まず、自衛隊福井晴敏のお陰ですっかり防衛庁や警察にときめくようになっちゃった。しかも主人公格のコンビがかっこいい。無愛想で人当たりが悪く、すぐかっとなる夏木に対し、いつも落ち着いている優男だが、容赦なく冷たくなれる冬原。名前からして正反対の二人は乙女のハートを掴んで離しません。どっちも捨てがたいっ……!(死んでください)
 そして、警察に機動隊に自衛隊(機動隊の押されて影は薄かったけど)。なまじっか能力があるゆえに上との軋轢が避けられない。現状を切り開くために熱く奔走する機動隊員。あああ……。私は機動隊に泣かされました。
 でもって潜水艦の中で繰り広げられる、小中学生と唯一の女性である高校三年生・望の人間模様。ついでに恋愛模様。一種の成長物語としても読めます。子供と親の関係、ひいては地域においての地位の順列、歪みまくったその神経、色々なものを内に抱える子供達……おおお。
 こんな風にみどころがいっぱいの本書。唯一不満だったのは綺麗にまとまりすぎたラストかな。作中の登場人物に恋をしてばっかりの私なので、ほろ苦い想い出として若いまま終わってほしかった……! でもって続編書いてほしかった……!
 同著者の『塩の街』、『空の中』も読もうっと! どれも評判いいですねー。久々にお気に入り作家が増えそうよ。彼女(彼だと思ってた)は自衛隊好きの主婦らしいです。
 ライトノベルとしては異例のハードカバー。しかしフォントはしっかり電撃文庫のフォントでした。だからこんなにちゃんとした体裁してんのにラノベさが漂うんだね。そろそろラノベの境界がわかりません! 

 


「――お前がいてくれてよかったよ」
「俺もだよ、とか一応言っとく?」
「気持ち悪いから遠慮する」

 圭介と友達だと思っていたのに、圭介より他人の方が茂久を傷つけない。茂久は圭介の機嫌を気にして喋るのに圭介は何も気にしない。

「この壊走は我々の最後の任務だ。我々にも警察の意地がある、ここで自衛隊の手を借りたなどということになったら仲間に申し訳が立たん」
(中略)
「彼らはこの壊走を任務と言った。誰にも言い訳できないこの不名誉を、彼らが誰のために任務としていると思う」
 省庁の反目もあろう、縄張り意識もあろう。しかし、手を借りることさえ潔しとしない相手を担ぎ出すために彼らはこの壊走を強いられるのだ。それは一体いかばかりの屈辱か。その屈辱を全うすることにプライドを賭けている彼らに、自分達が援助を申し出るということ自体が傲慢だった。
「見届けろ。あの苦闘の上に自衛隊が出動することを胸に刻め」


 引用させていただいた部分はどれも大好きなとこばかりです(笑)警察の誇り! ああ!
 機動隊が退き、自衛隊が出動してからは圧倒的にやられるレガリス。閉じ込められていた彼らも解放され、めでたしめでたしです。望は五年後、夏木の前に「初めまして」と現れ、あの時の忘れてくださいという台詞は再び出会うためのものだったのか、と……あー悔しい。二人がくっつくのも、上手く出会いすぎているのも、どうにも悔しかったです。ちぇー。
 圭介の成長っぷりはものすごいですね! いい男になれよ!