Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

米澤穂信『犬はどこだ』  ★★★

犬はどこだ
犬はどこだ
米澤 穂信
「こいつは貸しとくぜ、ボス!」

 退職してからおそらく初めて、私はそうしたいのだという意志に基づいて行動している。(中略)単に社会的モラルに基づいてのことだろう。私は波風のない人生を送ってきた人間であり、どこまでも社会的動物だ。

 母国語でする読書の何とすばらしいことか……貪欲に読み進めてしまった。楽だなー。米澤穂信ライトノベル作家っていう印象が世間では強いのかしら。ジュブナイルミステリって言うの? 青春を前面に押し出してる感じ。そんな古典部シリーズに対し、本作は打って変わってハードボイルド。
 主人公の紺屋は25歳でまだまだ若いけど、あと十年経てばいいオヤジになるんじゃなかろうか。ハンペーの中途半端な器用貧乏さが好きです。紺屋とハンペーのコンビは面白いからシリーズ化の噂を聞くと嬉しい。<GEN>が実際事件に絡んでくるかと思えば違うし、でもこのままで終わるキャラでもないだろう。紺屋の妹にもあんな裏があったことですし……表紙にも「1」って書いてあるもんね!
 何か自営業を始めようと決めたとき、最初に思い浮かべたのはお好み焼き屋だった。しかしお好み焼き屋は支障があって叶わなかった。そこで調査事務所を開いた。この事務所<紺屋S&R>が想定している業務内容は、ただ一種類。犬だ。犬捜しをするのだ。それなのに、開業した途端舞い込んだ依頼は失踪人捜しと古文書の解読。しかも調査の過程で、この二つはなぜか微妙にクロスして――いったいこの事件の全体像は?(表紙の折り返し)
 紺屋もハンペーも探偵としては素人だし、会話の応酬楽しいし、難しい用語は少ないしと文章そのものはとても読みやすかった。二人の捜査が重なってきているのが読者にはわかるのに、やる気のなさゆえ? か、二人は全てを終えるまで報告しあったりしないんだもん、やきもきします。まあそれが面白いんだが。
 ラストは賛否両論ありそうねー。ここまで盛り上げておいて、それでいいのか、と。後味は決してよくはない。しかし極めて私好み。「犬はどこだ」、というタイトルは読み終えて意味を捉えなおしました。
 米澤さんが石持浅海とイメージかぶるのは何でだろう……青春とロジカルな本格なのに。あ、創元ミステリ・フロンティアのせいか、そうか。  桐子がストーカーに怯えて逃げ隠れしているのではなく、ストーカー殺害のために全てを仕掛けていたとは。びっくりです。ハンペーの報告書を読んでそれを推理し、阻止しに走る紺屋。しかし時は既に遅し、山に転がっていたのは血まみれの帽子……。桐子に殺人を知っているということを知られないように、紺屋は願うのでした。
 結構ブラックな結末だよね! 普通なら殺人の直前で探偵登場、阻止って流れになるところを。事件が明るみ出るのを怯えているのは、桐子じゃなくて紺屋。いやーいいわ(笑)
 この過去を背負いながらケース2が出るのかな。ハンペーにはどうやって説明するつもりだろうか。