Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

佐藤多佳子『黄色い目の魚』  ★★★☆

黄色い目の魚
黄色い目の魚
佐藤 多佳子
 私の心からキライが減って、好きが増えてきた。それは、すごいことだ。ずっと望んでいて、なかなかかないそうもなかったことだ。木島一人を好きになっただけで、明るい濃い色が染みていくようにじわじわと好きが増えていく。世界が広がっていく。
 でも、もし、これがオセロのようなものだったら、どうなるんだろう?一番大きな最初の“好き”が白から黒になってしまったら、私が木島を好きでいられなくなってしまったら、バタバタと世界がキライの色に戻ってしまうんだろうか。(オセロゲーム)

 『しゃべれども しゃべれども』の登場人物はあまり好きになれなかったんだけど、これはよかった! 想像以上にほろりときてしまった。心に潤いをもたらす小説だと思います。ラストよりも、途中途中での何気ない出来事に泣かされたり。終わりに向かってまとまっていくから、エネルギーとでもいうか、はじめにあったようなひねくれた部分がなくなっていって、パワーは減っていったかも。成長・恋愛小説に衝撃の結末を期待しちゃ駄目だわ。そんなの死別くらいだよね(死んで終わりは好きじゃないんだが)。
 私には連作短編集と長編の境界線がイマイチわからないんだけど、これは長編なのね? 二人をずーっと年代順に追っているから? 伊坂の『チルドレン』が連作短編集ってのはよくわかるんだが。視点かな。登場人物かな。わからん。忘れるだろうので話ごとにあらすじをば。必然的にネタバレになっちゃうから逃げてください。
 りんごの顔:木島悟は会ったことのない父親・テッセイに会いにいく。テッセイは絵を描くのが大好きで……。
 黄色い目の魚:みのりの叔父・通はマンガ家。みのりが書いた黄色い目の魚を元にして、彼はキャラクターを作った。ヤな奴『サンカク』。
 からっぽのバスタブ:みのりのクラスの木島は、有名な落書き男。美術の時間、偶然にも彼とお互いを描きあうことになってしまった。
 サブ・キーパー:悟はサッカー部のゴールキーパーだ。同じポジションの先輩・本間さんに代わり、練習試合に先発出場するのだが……。
 彼のモチーフ:みのりは悟に、みのりを見て絵を描きたいと言われ、家まで赴く。その後二人で行ったカフェにいたのは、通ちゃんが描いてる“あのコ”。
 ファザー・コンプレックス:悟の妹・玲美が、結婚すると言って四十男のところへ行ってしまった。更には勝たなくてはならなかった試合で失点を許してまい、チームメイトとはぎくしゃくするし……。
 オセロ・ゲーム:通ちゃんと似鳥ちゃんはイイ感じに。木島とみのりは、周囲からカップルだと思われているが、彼が絵を描きあげてしまったら、あんな風に自分を見てもらえなくなる。
 七里ヶ浜:似鳥と寝たことを白状し、後悔しながらもみのりの絵を描く悟。ばったり通と会ったので絵を渡してもらおうと思ったが、自分で渡せと断られた。
 一人称で、木島とみのりが交互に語る。心情が手に取るようにわかるので入り込みやすい。
 中高生の話を読むたび、私はもう戻れないんだなあと泣きそうになる。あさのあつこもインタビューで言ってたけど、少年少女って皆輝いてる。若さってすごい。私もまだ辛うじて十代で、学生という身分ではあるものの、制服着てるあの子達とは深い断絶がある気がする。若いなあ、ってしみじみしちゃうもの。これからどんどん年を取っていっても、その頃感じたことを忘れないでいられたら……ああ、涙が。