Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

麻耶雄嵩『名探偵 木更津悠也』  ★★★

名探偵 木更津悠也
名探偵 木更津悠也
麻耶 雄嵩

 名探偵を名探偵たらしめているのはその卓越した能力ゆえではない。類い希なる自制心ゆえである。


 こんなまともな本を読んだの久しぶりだっ……! 信じられない。メルと美袋のための殺人もそうだったから、短編集はわりと普通なのかしら。何だか癒されたよ(笑)香月君の木更津に対する賞賛っぷりがなんとも……。とはいえ、よく考えると酷いんだけどね。神様ゲームの人間関係に似た酷さがあるんだよね(あ! やっぱりああなんだ! 神様ゲームの一部に納得がいきました、今現在)。
 未読の方は必ず『翼ある闇』を読んでから、出来ればシリーズ全部読んでから、本書にトライしてみて下さいな。メルカトル鮎シリーズのメル&美袋ではなく、もう一組のホームズ&ワトソン・木更津悠也&香月実朝がメイン。
 白幽霊:戸梶産業の社長が自宅で殺された。財産を巡る身内のトラブルという噂だったのだが、容疑者とされている美智子(社長の死んだ長男の妻)に夕顔から香月を通じて捜査を依頼され、木更津は重い腰を上げた。
 禁区:御殿通りに幽霊が出るという。行方不明の友達ではないかと、知耶子は薫香ら総勢五人と確かめに行ったのだが、幽霊は実在して……。
 交換殺人:依頼者の平山勝は飲み屋で交換殺人を持ちかけられたのだが、自分が殺していないのに相手の殺してほしかった男が死んでしまったから、代わりに妻を殺される前に事件を解決してほしいという。
 時間外返却:鉄道展望ビデオに写っていた幽霊。オカルト好きが確かめに行ったところ、橘鈴子の死体が発見された。鈴子の父・影夫から、事件を解明してほしいと木更津は依頼を受ける。
 全て幽霊絡み、その上実在しちゃってるみたいな設定。ミステリ部分にオカルティックなことが入って推理が破綻してることは全くないので、その辺はご安心を。今まで読んだ全ての麻耶作品で最もまともです。
 木更津自ら「後味の醜(わる)い事件」と評している、白幽霊。香月の働きが光ります。禁区はあいにくの雨で以来の高校生もの(?)。辻村が気づくほど、違和感があるかなあ? 私も木更津に惚れ惚れ。交換殺人、最後の一行がかなり好きだ。香月も充分かっこいいよ。
 時間外返却にあった、香月の名探偵に対する考察がとても興味深い。ネタバレになるのかなあと思ったので引用は控え目にしておきました。続きを読めばあるけど。だってかっこよかったんだもん。結末は素敵ですね。もう天晴れと言わせてくれ。それにしても、香月君が木更津をかっこいいかっこいい連呼していてこっちが恥ずかしくなりそうだ。この二人の歪んだ関係ってもう(笑) 

 

 木更津が名探偵に相応しいのもそのためだ。彼には様々な誘惑にうち克つ強靭さがある。自ら名探偵を自任し、規範となるべくストイックに邁進する強い意志がある。私が木更津に憧れ、求めてやまないのもその厳しい姿勢だ。残念ながら私にはない。私にはそのような真似は出来ない。決して名探偵にはなれない。


 香月が名探偵になれないのは、強靭な意志がないからであって、推理力は木更津以上……面白い関係だなあ。木更津を名探偵たらしめたいから、香月は彼のそばにいるのかしら。木更津は気づいてないのかな。気づいてたら気づいてたで、相当複雑な人間模様だな。
 最終話の鈴子の不倫相手が主婦だったというの、本当に面白いです(笑)