Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

伊坂幸太郎他『I LOVE YOU』  ★★★★

I love you
I love you
伊坂 幸太郎, 石田 衣良, 市川 拓司, 中田 永一, 中村 航, 本多 孝好
 彼女はなんてことをしてくれたのだろう。僕の心に入り込むなんて、本当に酷いことを百瀬はしてしまったのだ。僕と手を繋ぐなんて、酷いにもほどがある。母と話してくれるなんて、髪を切ってくれるなんて、罪深いにもほどがある。(百瀬、こっちを向いて)

「だけどまあ、いいんじゃねえのか。大した敬意を持てないときこそ、礼儀ってやつが便利だろ。そういう関係の中からしか出てこない言葉とかもあるだろうしな」
 そう言ったあと木戸さんは、じっと何かを考えた。
「考えてみれば礼儀ってのは凄くいいな。世界三大美徳のひとつには入るだろうな」(突き抜けろ)

 どれもよかった! 女性の書く恋愛小説もいいけど、男性も捨てがたい……。一つを除いて全ての語り手が男、しかも一人称が僕ってのがいけない。春樹チルドレン好きな私は、僕を使う男が大好きなのである。てか、この本春樹チルドレン多いよな。伊坂と本多が出てたからこれは必読の勢いだったんだが(実際やられた。アンソロ書くのもいいけど単行本も書いてくれ、頼むから。名前の順だとは知りつつも彼らがはじめとトリをつとめてるのがおいしい)、他の作家もどれも素敵で、恋愛小説をさらっと後味良く楽しみたいならこれはかなりのお薦め。
 透明ポーラーベア(伊坂幸太郎):僕は動物園で、姉の昔の彼氏・富樫さんと再会した。お互いに恋人と二人で来ていて、何らかの問題を抱えている。シロクマが病的に好きだった姉を思い出しながら……。
 魔法のボタン(石田衣良):二十年以上友人である萌枝と、失恋したばかりのぼく・隆介は連れ立って飲みに行った。それからは休みが来るたびに、二人でどこかへ出かけることになった。
 卒業写真(市川拓司):スターバックスで声を掛けてきたのは、中学時代のクラスメイト・渡辺くん。しかし、話していてどこか噛み合わない。私の頭に閃いたのは、もう一人の渡辺くんだった。
 百瀬、こっちを向いて(中田栄一):学内一の美男美女カップル・宮崎先輩と神林先輩。宮崎先輩と幼馴染で人間レベル2の僕・相原ノボルは、先輩の浮気を隠すために彼の浮気相手・百瀬陽と付き合うふりをすることに。
 突き抜けろ(中村航):彼女と付き合うやり方を変えた僕。代わってつるむ時間が増えたのは、心優しき小太りで飯塚さんという好きな人がいる坂本。彼に誘われ、僕は木戸さんのアパートに毎週通うようになった。
 Sidewalk Talk(本多孝好):五年間の結婚生活に終止符を打つことを決めた僕と彼女。レストランで最後の食事をしながら、過去を振り返る。
 伊坂の純粋な恋愛小説ってはじめてだ。雰囲気や会話がやっぱり彼の書いたものだなあ。優しい。姉さんのことがあるから少しだけしんみり。石田衣良の恋愛ものは悔しいけど好物。幼馴染設定はずるいよなー。最近有名になった市川拓司、読みにくくはあったもののまあこれからを考えて笑っちゃう感じ。見守る(笑)。でも、全ての作品がこういう文体だったらそこまで惹かれはしない。百瀬、可愛いぞ。結末は絶対こうでしか有り得ないありがちなものながらもいいんだなあ。こっちを向いて。人間レベル云々は誰しも考えてしまうことだよねー。突き抜けている木戸さんは伊坂が書く突き抜けた人物を思い出しました。陣内とか。自分の最盛期は過ぎたと言うところと、ただそこにあるそれだけで笑いがこみ上げるくだりが大好きだ。テンションがおかしいと何でも笑えてしまうもの。本多さん、私と結婚して下さい! あの日しかつけていなかった香水を、最後の最後で……泣いちゃうさ私なら。一度立ち読みした際は急いでいて分からなかったんだけど、再読してみたらやばかった。
 いいねえ、恋愛……。
 一つ難癖をつけるとしたら装丁か。これ、図書館でカバーかけて借りる分にはいいけれど書店ではボロボロになってたよ。もう少し工夫をしなきゃ。アンソロジーの名前も大分直球だよね……。いつだか読んだ女性作家の恋愛小説アンソロジーも、『恋愛小説』だったけどさ。あと『ナナイロノコイ』。異なる作家による異なる話をうまく包括するタイトルなんて、テーマに沿って書いたりしない限り無理なのかな。