Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

殊能将之『キマイラの新しい城』 ★★★☆

キマイラの新しい城
キマイラの新しい城
殊能 将之

「その衣装、けっこう似合うと思いますよ。ほら、大将は眼鏡をかけてるから、中年ハリー・ポッターって感じで」
「なんでぼくが中年ハリー・ポッターのコスプレしなきゃならないんだよっ!」


 な、何なんだこの探偵は! 私を殺す気だろうか。黒い仏の時から声を大にして言っておりますが(?)、このシリーズはキャラ萌え上等です。石動と、アントニオに、惚れた……。このへっぽこ探偵を誰かどうにかしてください。何を着ても様になる助手を(以下略)。
 「私を殺した犯人は誰なんだ?」欧州の古城を移築して作られたテーマパークの社長が、古城の領主の霊に取り憑かれた!? 750年前の事件の現場状況も容疑者も全て社長の頭の中にしかない。依頼を受けた石動戯作も忠誠の人間のふりをして謎に迫る。さらに、現実にも殺人が! 石動はふたつの事件を解明できるか!?(裏表紙)
 このミス2005で18位にランクインしているのが不思議。まあ、過去の作品も結構なものだけどさ。『ハサミ男』は言わずと知れたメフィスト賞だし、このミス9位。『美濃牛』は本格ミステリ大賞の候補作。『黒い仏』『鏡の中は日曜日』もこのミス20位以内。『樒/榁』はおいておくとして、『黒い仏』もランクインしてるのか……ミステリー&エンターテイメントだからかしら。バカミスと呼んでもおかしくないくらいなんだけど。本格好きな人は投げてしまうんじゃないか。最後に言い添えますが、私は殊能将之大好きだ。この本で決定的にファンになった。毎年彼の石動シリーズを心待ちにしますよ。頼むから、これからもあの二人を……!
 いい加減内容に触れますか。あらすじどおり、突拍子もない感じ。エドガー・ランペールという名の人物が江里社長に憑いてしまった。大海常務に依頼され、石動とアントニオがシメール城に向かうと、手渡されたのは紙袋に入った魔術師の衣装。そんなこんなで引用したのが上の台詞ね。脳内イメージは、石動は多少へたれでも御手洗タイプ(変人探偵の典型)だったのに中年ハリー・ポッターとは。しかも小さいのか。アントニオのかっこよさがますます際立つぞ。シリーズが進むにつれ可愛くなる助手にはよくお目にかかるが、探偵がそうなるとはびっくりです。
 エドガーは十字軍の頃の人なんだが、たまに交じる歴史描写はこのまま歴史物を書いてもいいのではと思った。うまいなあ。現代にタイムスリップ(幽霊はずーっと世間を見てたんじゃないのねえ)したエドガーの目に映る車やバイク、ロポンギルズはとってもおもしろい。しかもこのじいさん、アクションまでこなしてしまう。カゲキお疲れ。すげえ。殊能さん、やりたい放題してる。ポスロリ……(笑)
 結末には言うことなし。ネタバレにて。『黒い仏』とどっちもどっち。大将、元帥に弱すぎだ。
 まあ、ユーモアミステリ楽しいぜ、これにて締めくくります。

 えー殊能さんといえば博学っぷりが有名ですが、私はいつだっておいてけぼりをくらってます。そして彼は遊び心満載の方だと思います。牛は横溝のオマージュらしいし、天瀬や窓音の名前はギリシア神話からだとか。そしてあの尋常じゃない引用文の量。仏では仏教の知識がわんさか、クロフツと言われてもわからない。鏡はマラルメとフランス語。綾辻館シリーズのオマージュ(と言うべきか否か)。登場人物の頭文字がシリーズの名前の云々……鮎井郁介だもんなあ。めちゃ綾辻じゃん。本書ではすごい勢いでマイケル・ムアコック。初めて知った作家。元ネタがわかりたいよ~! 読書あるのみですか。

 

 じゃあ年代順に、事件について。
 皆を巻き込みコスプレごっこをはじめた大将は生き生きとしていました。その後、警察に怪しい目で見られていてちょっぴりざまあみろでした。ではなく、石岡君もびっくりのトリック! しかもでっちあげ! 元帥、素敵です……。塔じゃなくて回転かあ。でも、円柱があの状態で立ってられるとは思えないぞ。実際嘘だけど。しかも事件ではなく、自殺(事故)だったわけだけど。はちゃめちゃ。
 現代の方は、金瀬が殺人犯だった、と。非常口はな……古城にそんなものがあるとは思いもせず。コスプレごっこのせいで殺人を犯してしまった金瀬に合掌。飯留にも合掌。
 と、どっちも元帥が解決した挙句、トリックも大したものではなかった。そしてアントニオが一人で全てを分かっていた。相変わらず何をさせてもかっこいいです。探偵、見る影なし。石動が牛で見せた推理力はどこへ行ってしまったんだい。今となっては遠い昔のこと。この人、名探偵の名刺をやめるべきよね……。可愛いから許されてるんだよ(イメージ:小さな可愛い中年、細身だと願っている)。
 ああ、面白かった。