Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

絲山秋子『逃亡くそたわけ』  ★★☆

逃亡くそたわけ
逃亡くそたわけ
絲山秋子
「なんかなんか、強烈なんよ。もてあましとって、居場所のなか感じ」
「とりあえず俺達逃げてるんだからさ、ここにいたらいいよ」
「ここって、どこ?」
「車の中。今はここが居場所なんだよ」
 優しい言葉なのに通じない。響かない。

 上のベルカと同じく、本書も直木賞候補。ちょっと前に『袋小路の男』を読んだ上で読む。何ちゅうタイトルじゃ、どんな小説じゃ、と思っていたがなかなかいい感じであった。
 21歳の夏は一度しか来ない。あたし・花ちゃんは逃げ出すことにした。軽い気持ちの自殺未遂がばれて、入院させられた病院から。逃げるのに思いつきで顔見知りを誘った。24歳の茶髪で気弱な会社員・なごやん。すぐに「帰ろう」と主張する彼を脅してすかして車を出させた。東へ。そして南へ。ルーチェで九州の田舎町を駆け抜けるふたりの前にひろがった暑い夏の物語。(Amazon
 170ページ程の短さ。とっても短い中で二人は逃げる。精神病院のある博多から、九州の果てまで。地の文は標準語だが、主人公はばりばりの博多弁を喋る。たまによくわかんなかったりする。なごやんは言葉に規定されたくないから標準語を喋る。変な二人組み。色っぽいことは起こらない。躁と鬱、反対の病気を持つ彼ら(特に花ちゃん、「亜麻布二十エレは上衣一着に値する」てな幻聴がずっと聞こえてたらそら怖いわな)。アホだったり喧嘩したり優しかったり、まあ頑張って逃げろよ~とのんびり応援してしまった。こいつら年のくせに会話やらがかなり頼りない。微笑ましいとも言う。自分のことだけ考えてたり、他人を思いやったり、両方があるのがいい。
 本の最後に九州の地図&行路が(これだよ、ベルカ!)。そう、かなりローカルなネタが盛り込まれているようで。九州に行く際には(あるのか?)是非読み返して寧ろ持参したいですねえ。私もいきなり団子が食べたいよ。ついでに名古屋でなごやんもね。
 従来の彼女の作品は袋小路よりみたいですね。くそたわけはハイテンションだよ。