Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

殊能将之『黒い仏』  ★★★☆

黒い仏
黒い仏
殊能 将之

「悪いけど、ぼくはそういう荒唐無稽な話、だめなんだよ。読んでも、どこがおもしろいのか、さっぱりわからない。ミステリのほうがいいな」
「だと思いましたよ。アタシも嫌いです」


 アアアアントニオッ……!(身悶えている)
 この一冊はアントニオのためにあったと言っても過言ではない(そうか?)。いいや。私がそうしたい。美濃牛の感想で「石動に助手はいない」とか馬鹿なことをほざいていた女だけど。アントニオ、ちゃんと助手だった。そしてやっぱり麻耶とかぶる。アントニオの立ち位置について。
 9世紀、天台僧が唐から持ち帰ろうとした秘宝とは。助手の徐彬(アントニオ)を連れて石動戯作が調査に行った寺には、顔の削り取られた奇妙な本尊が。指紋ひとつ残されていない部屋で発見された身元不明の死体と黒い数珠。被害者と会っていたところを目撃された、黒瑪瑙のネックレスの女を追う警察。事件はあっという間に石動を巻き込んで恐るべき終局へ。(Amazonとか)
 ミステリとしては限りなく反則であり、別の意味で驚きなんだけど、すっごい好き。石動とアントニオが好き。このコンビ、いいよ。シリーズはまだ続いているみたいで嬉しい。鏡の中~を再読したくなるくらいに、やられてしまいましたよ。アントニオが石動の可愛さを引き立たせているよ。
 たまにはこういうのがあってもいいよね。うん、ミステリじゃなくてエンターテイメントとして普通に楽しんでしまえばいいのさ。短いからすぐ読めてしまったのが残念といえばそうかな。最後を放り投げる感じだけど、まだ世界は大丈夫みたいね。

 

 妖魔、ね! 空を飛べてタイムスリップまでできてしまうのなら、完全犯罪も証拠のでっち上げもさぞかし簡単でしょうね。推理どおりにすればいいんだから。石動は辻褄合わせの天才になってしまった。
 まあいい。この本で大事なのはトリックとかじゃない。アントニオだ! 幼い頃から中国で如月行(福井晴敏亡国のイージス』)のように訓練されていて、過去に力(リー)でもって何十人も殺戮していた、

「だから、大将には手を出すな。大将はあんたとは違う世界に生きてるんだ。あんたみたいな汚らわしい化け物と関わっちゃいけない人だ」


 とか言っちゃうアントニオですよ! ヒー! かっこいい! 探偵より強い助手、大好物。探偵を見守る助手、大好物。ごめんなさい生きてて。