Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

島田荘司『暗闇坂の人喰いの木』  ★★★☆

暗闇坂の人喰いの木
暗闇坂の人喰いの木
島田 荘司

「離れて見ているんだ、二人とも。呪われるのが怖ければ、ずっと離れていてくれ。部屋に帰ってベッドに入っていてくれてもいいぜ! 呪われるくらいなんだっていうんだ? 僕はへっちゃらさ。これをやらなきゃあ事件は永久に解決しないんだ」


 結末は多分にご都合主義だったけれど、死への興味がそそられた。人は残虐な行為に眼を向けずにはいられないらしい。ああいうの、読んでいて面白いです。猟奇的なおどろおどろしいやつ。死刑の様々なやり方、最後に出てくるアレの作り方……。この本は雰囲気勝ちだな! 人喰いの木だもんな!
 石岡を訪ねてきた女性の付き合っていた藤並卓が、屋敷の屋根の上で座ったまま死んでいた。卓の母・八千代はその日、大怪我をしていた。昔首切り場があった暗闇坂に立つ屋敷には、人を喰うと噂される巨大な楠が。御手洗・石岡・レオナ(藤波家長女)の3人は、八千代の前夫であるジェイムズ・ペイン氏の残した走り書きに従い、イギリスにある『巨人の家』へ。その間、横浜では八千代と譲(藤波家次男)が死んでしまった……。
 やっぱり長編はいいな! 日本とイギリス・時代までもをまたにかけたスケールのでかさ。多少厚いかもしれないがリーダビリティはあるので。占星術よりよっぽど読みやすい気がするなあ。あれは初っ端から長い手記だったから……。
 本書でレオナ初登場。今後、彼女がどのようなポジションを獲得していくのかを見守っていきます。次は眩暈かアトポスあたりよね。あ、水晶のピラミッドか?
 段々と御手洗の奇抜さが失われていくような……いきなりイギリス行ったり、思い切りはいいし、他の人に比べればおかしい人なんだけどさ。占星術で見せた変人っぷりが見たいのよ。あんな会話をしてほしいわけ、石岡君と。漫才コンビのお二人さん。年を取るにつれて落ち着いていくのかな、どうしても。まあ石岡君が御手洗を心配しすぎているから許します(笑)

 

 あの死体二つ、煙突とロープを使ったら、偶然屋根の上に座っただの木に刺さっちゃっただの、それは……ないよね! とはいえ、そんな島田荘司が好きです。大掛かりなトリック、楽しいもん。何よりあの狂気。
 ジェイムズ・ペインの作ったからくり人形と人体模型。そんな夫を殺し、息子も殺し、娘をも手にかけようとした悲しい女性・八千代。「自分が産み落としたものすべてを消し去ってからではなくては死ねないような人生とは、一体何なのでしょう」という文章には参ります。

 御手洗の女性観が表れている台詞。

「生き馬の目を抜く厳しい女の世界を知らないんだ。勝つか負けるか、得するか損するかだ! 人がうらやむような幸せは、ぼんやり待っていてもやってきはしない、自分の手でもぎ取らなくてはね。そのためには少々手荒にもなるさ。お行儀良くしていて女一人の淋しい老境にさしかかっても、同情されるだけで誰も救けてはくれないんだよ。彼女たちは、モラルというものの本質を本能的に見抜いている」


 石岡君が女性に失望しちゃったよ!

 おなじみの名前談義。とぼけた感じがいいですな。

「お手洗い、潔さん? 変わったお名前ですな」
「みなさんそう言ってくださいます」