Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

重松清『きよしこ』  ★★★☆

きよしこ
きよしこ
重松 清
「誰かになにかを伝えたいときは、そのひとに抱きついてから話せばいいんだ。抱きつくのが恥ずかしかったら、手をつなぐだけでもいいから」(きよしこ

「最後を悲しい終わり方にはするなよ。お芝居いうか、嘘っこのお話は、途中がどげん悲しゅうても、最後の最後で元気が出んといけんのじゃ。そげんせんと、なんのために嘘っこをするかわからんじゃろ」(北風ぴゅうた)

 『ナイフ』がよかったので調子に乗って三冊目。重松清はいつも少年・少女の抱える問題を書いているのだろうか。
 とある作家のもとに届いた手紙。吃音の子どもを持つ母が、同じく吃音の作家に励ましの言葉を送ってやってくれないか、というものだった。作家は「個人的なお話」を書くことにする。主人公はカ行とタ行が苦手な、転校を繰り返す少年。
 きよしこ:少年は『きよしこの夜』を「きよしこ、の夜」と間違えていた。真夜中にきよしこが自分を訪ねてくると思っていた。
 乗り換え案内:小学校三年生の夏、少年は『吃音矯正プログラム』に通うことに。そこで出会った加藤くんは、少年にちょっかいばかり出してくる。
 どんぐりのココロ:小学校五年生、転校先になじみそこねた少年は神社でアル中のおっちゃんと友達になった。
 北風ぴゅう太:小学校六年生、少年は担任の先生にお別れ会でやる劇の台本を書いてくれと頼まれた。
 ゲルマ:中学校二年生、少年は迷惑な友だちに出会う。自分のことを初めて親友と呼んでくれた、ラジオが好きで鈍感なゲルマ。
 交差点:中学校三年生、野球部に転校生・大野がやってきた。実力の世界で、彼は部員のレギュラーポジションを奪ってしまった。少年は転校生、ということで大野を気にするが……。
 東京:高校三年生、受験期。図書館で出会ったワッチと仲良くなった少年は、W大に行きたいと言い出せない。
 装丁も挿絵もいい感じ。内容もですが。主人公は白石清という名前だけれど、これは作者の私小説になるのかな? 気になります。下の引用の文章のように、作者は考えているのかな。本書は清々しく終わっていたので。カバーの水色がぴったり。
 はじめは標準語を喋っていたのに、段々と方言に馴染んでいくっていうの、いいなあ。
 言いたいことが言えない、というのは誰でも経験があるだろうけど、少年のように本当に(?)言えない、なんてのはどんな気分なのかわからない。言おうとすれば私は言葉を選びながらでも、フラーを多用しながらでも、言うことが出来ると思う。でも、言えなかったりする。人の顔色を伺ったり、つまりは自分が困った立場に追いやられたくないとか、自分を中心に据えた考えによって言わない。ナルチョのいうように、傷つくことを言ってはいけないのかもしれないけど……そこらへんを見極めるのは難しい。うーむ。
 最近、子ども勿論のこと母親に感情移入することが多くなった。もし自分が少年の母親だったら。もし自分の子供がいじめられたら。おいおいお前結婚できるのかよという疑問はおいておくとして、そんな状況におかれたら私どうなっちゃうんだろうか。間違いながらも、迷いながらも、なんとかしていけたらいいんだけど。理想の母親は瀬尾まいこ『卵の緒』の母さんです。……無理か。