Memoria de los Libros Preciosos

続きを読むとクリティカルなネタバレがあります

殊能将之『美濃牛』  ★★☆

美濃牛
美濃牛
殊能 将之

 ぼくはきみのなかに迷い込んだ。もう糸を手にしてはいない。美濃牛に殺されなかったことが、なんになるだろう? ぼくはきみがこわいんだ。


 先日読んだ彼の『鏡の中は日曜日』がシリーズだったことをTBして下さった方のお陰で知り、石動が好きになってしまった私は本作を手にとったのであった。まあ、鏡を薦めたのもわかるわ。あっちの方が面白かったねえ。タイトルのインパクトはすごいけど。あの、麻耶雄嵩殊能将之を同類として括るのは間違っていますかね。
 ライターの天瀬は奇跡の泉とやらを取材するため、カメラマンの町田、依頼主の石動とともに岐阜県へ赴いた。泉のある鍾乳洞の土地の持ち主である羅堂家が取材を拒否するため、なかなか思うようにはいかない。すると、羅堂家の長男・哲史が首を切り落とされた状態で発見される。「鬼の頭を切り落とし……」というわらべ唄のごとく、殺人は続き……。
 石動が探偵役のシリーズみたいだけど、彼に助手はいない。単品で捜査をする、というのに新鮮さを覚えた(天瀬と町田はちょっと違うだろうし)(でもそれは島田荘司有栖川有栖が念頭にあるからかも)。(アントニオが普通に助手でした。私、何も読み取ってないみたい)性格としては典型的な探偵(御手洗や島田潔とかね、破天荒な感じ)だから、それを諫める人がいなくていいのかなあ、とは思います。まあ、最後には警察にも好かれてしまうみたいだし、充分やっていけるのかしら。事務所に帰ればアントニオが待ってるしね。
 閉鎖的な山奥の村、っていうと『屍鬼』あたりを思い出す。ああ、再読したくなってきたぞ……。いやいや、次『黒い仏』だから。『鏡の中の日曜日』感想をきちんと書かなかったことをすごく悔やんでおります。きいい。

 

  哲史が自殺だったのはちょっとがっかり(?)しちゃった。不謹慎にも。男にフラれたのが原因てのは好きだ(これも不謹慎だ)。陣一郎をつくりあげた三兄弟の冷徹さ、特に美雄は恐ろしい。金のためなら人間何でもやるのねー。
 そんなこんなで殺人事件そのものはあまり評価してないんだけど、付随するいくつかのエピソードが面白かった。石動は笑えるし、町田が草取りしてるのもかわいらしかった。保龍の考え方や、教祖になってしまった火浦、強盗はしても人殺しはしないと豪語する灰田……。警察の皆さんもおもしろかったし、出羽と藍下の関係も苦笑が漏れる感じで。そして恐ろしい窓音。あの子怖いよ。天瀬は捕まっちゃったねえ。